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王貞治が作った最強ソフトバンク、キーワードは「育成出身」

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2020.05.07 06:00 最終更新日:2020.05.07 06:00

王貞治が作った最強ソフトバンク、キーワードは「育成出身」

 

 2019年、3年連続日本一を達成したソフトバンクの厚い戦力層に、他球団は完全に圧倒された。
 主砲の柳田悠岐をはじめ、故障者が続出したレギュラーシーズンこそ2位に終わったが、ポストシーズンでの戦いぶりには、目を見張るものがあった。

 

 クライマックスシリーズでは、2戦先勝のファーストステージでリーグ3位の東北楽天を相手に、初戦黒星を喫しながら2連勝で突破。さらに、リーグ連覇を果たした埼玉西武とのファイナルステージは、無傷の4連勝で突破した。日本シリーズでも、セ・リーグの覇者・巨人に無傷の4連勝。ポストシーズン10連勝という快進撃で、3年連続での日本一を達成した。

 

 

 21世紀の新たなる覇者・ソフトバンク。その「強さの原動力」として注目されたのは「3軍育ち」、育成選手としてプロ入りした、たたき上げのプレーヤーたちだった。

 

 千賀滉大は、日本シリーズの開幕を担い、その初球に159キロの剛速球を投げた。
 甲斐拓也は、徹底したインコース攻めのリードで、巨人打線のリズムを狂わせた。
 周東佑京が「代走」で登場すると、盗塁への期待でスタンド中が沸いた。
 牧原大成は、シリーズ初戦で2安打2得点。1番打者としての重要な役割を果たした。
 石川柊太は、シリーズ3戦目に「第2先発」として5回からの2イニングを無失点。

 

 彼らに共通しているのは「育成出身」であることだった。育成ドラフトで指名され、育成選手としてプロ入りを果たした。3桁の背番号を背負い、3軍で鍛えられた。その努力の末に支配下選手の座をつかみ、日本一を支える主力選手としての地位を築いた。

 

 底辺から這い上がってきた男たちが、球界の盟主・巨人を打ちのめす。そのカタルシスとサクセスストーリーは、日本人の琴線に響くのだ。球団会長の王貞治は、育成出身選手の活躍ぶりを「大きな夢」と評した。

 

 2020年2月1日付で球団から発表された「2020年ホークスメンバー表」によると、ソフトバンクには投手9、捕手3、内野手6、外野手6の計24人の「育成選手」が所属している。ただその立場は、プロ野球球団の一員でありながら、実に曖昧な位置づけでもある。

 

「日本プロフェッショナル野球協約」には「日本プロ野球育成選手に関する規約」が定められている。そのルールを、列挙してみよう。

 

・1軍の公式試合には、育成選手は出られない。
・2軍の公式試合にも、育成選手は1球団1試合5人以内に限定。
・育成選手として3シーズン在籍する間に、当該球団から支配下選手として契約されなかった場合には、自動的に自由契約になる。
・最低参加報酬は年額240万円(※1軍最低年俸保証額は1600万円)
・契約する際の支度金の標準額は300万円(※ドラフト指名の契約金上限は1億円)
・一般社団法人日本野球機構の定める年金規定の対象者には該当しない。
・日本プロ野球選手会には所属できない。

 

 支配下選手と育成選手では、条件も、待遇も、何もかも違うのだ。

 

 2005年(平成17年)に、プロ野球界が、改革の一手を打った。育成選手選択会議を、初めて開催したのだ。スポーツの多様化、少子高齢化という社会状況も相まって、野球のプレーヤー人口の減少と、ファンの野球離れが危惧され始めていた頃だった。

 

 その要因の一つとして挙げられたのが、プロ野球界に多くの逸材を供給する「人材プール」の役割を果たしていた社会人野球の衰退傾向だった。日本経済の衰退。それに伴って「企業スポーツ」を抱える体力がなくなってきたのだ。プロへ至る「道の細さ」は、プロ野球の魅力を失わせ、それがひいては、野球人口の減少にもつながっていく。そうした悪循環を、何とかして食い止めなければならない。球界全体で共有した危機感から「育成選手制度」が設けられたのだ。

 

 ドラフトで指名する選手は、精査を重ね、厳選に厳選を重ねた末での球団の決断だ。育成は、その「本指名以外の選手」なのだ。獲った選手は、選手1人あたり、食費など育成にかかるコストとして、年1000万はかかるといわれている。ドラフト本指名の選手でも、育成選手でも、入団すれば「一選手」として同じだけのコストがかかる。

 

 単純計算で、育成3年間で3000万円。10人なら3億円。育成選手を増やせば、コーチもスタッフも増やす必要が出てくる。いくら年俸を抑えたところで、育成のコストは現状よりも大きくなる。その投資のリターン、つまり、選手はモノになるのか。親会社から経営を任されたフロントが、そのコストを是とするだけの理由は、なかなか見当たらないのが現実だ。ソフトバンクは、そのコストセンターというべき「育成」に投資してきたのだ。

 

 支配下選手枠の上限は70人。2020年2月1日現在、ソフトバンクの支配下選手は66人。うち、1軍出場選手枠は29人と定められている。単純計算でも、2軍選手は37人いることになる。ここに、育成選手が上乗せされる。ソフトバンクなら、24人を足して61人だ。

 

 ちなみに、2019年シーズンで、支配下選手と育成選手を足して、最小の71人だったのが、北海道日本ハムと東京ヤクルトの2球団だ。大雑把にまとめてしまえば、ソフトバンクの1軍以外の選手数は、日本ハムとヤクルトの1球団分というわけだ。単純に計算しても、3軍の必要性が見えてくるともいえる。

 

 若き選手たちの「持てる素質」を開花させるために、激しく競り合わせる。そうすることで、プロ意識が芽生える。そのための「場」を作らなければいけない。だから「3軍」を創る。それが、王の描いた、育成の「グランドデザイン」であった。

 

 

 以上、喜瀬雅則氏の新刊『ホークス3軍はなぜ成功したのか?〜才能を見抜き、開花させる育成力〜 』(光文社新書)をもとに再構成しました。なぜホークスだけが大成功を収めたのか、王会長をはじめ、多くの選手・関係者への取材を元に解き明かします。

 

●『ホークス3軍はなぜ成功したのか?』詳細はこちら

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