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野村監督が称賛した「落合博満」いま明かされる「三冠王の絆」
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2020.05.08 20:00 最終更新日:2020.05.09 09:53
2020年2月11日に惜しまれつつ亡くなった、野村克也さん(享年84)。辛口の評論で人気だった野村さんだが、マネージャーの小島一貴さんは、「『野球界で長く過ごすうちに目が肥えてしまい、少々の良い選手でも驚かなくなった』とご本人がおっしゃっていた」という。
そんな野村さんが一目置いていたのが、落合博満氏だ。生前のエピソードを、小島さんが明かしてくれた。
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「あいつはすごいぞ。三冠王、3回だぞ」
野村監督は落合氏について質問されると、いつもそうおっしゃっていた。
猛者ばかりが集まるプロ野球界において、1年で3つのタイトルを独占することが、どんなに大変なことか。監督ご自身も経験者だからこそ、深く理解されていたのだろう。
ご自身については、「三冠王になった年、本塁打、打点はともかく、たまたま他の選手が不調で首位打者を獲ることができたから」とおっしゃっていた。1度達成するだけでも大変なことなのに、3度も達成するのだから、「落合氏は常軌を逸している」というわけである。
「でも落合さんは、三冠王獲ってもチームが優勝してませんよ」と言う取材者の方もいた。しかし、監督は意に介さず、こう返されていた。
「落合ひとりがどんなに打とうと、優勝するかどうかはチームの力によるのであり、3度の三冠王のすごさは変わらない」
また、こんなこともおっしゃっていた。
「落合は、言うことがすべて前向き。悲観的な話は一切しない。それが、三冠王3度の源なんだろうな。俺は正反対(笑)。口を開けば、ぼやきや」
一方で、監督が落合氏のことを手放しで褒めていたかというと、そうでもない。とくに監督としての落合氏については、時折、批判もしていた。ひとつは、落合氏の監督就任会見についてである。
「『誰もやったことがないような野球をやります』みたいなことを言ってたんだよ。でもシーズン始まってみたら、采配はオーソドックス。あの宣言は、何だったんだろう」
もうひとつは、世間を大いにざわつかせた、日本シリーズでの完全試合の件である。2007年の日本シリーズ第5戦、8回まで完全試合だった山井(大介)投手を9回に交代させた、落合氏の采配だ。
「普通は続投させるだろう。滅多にないチャンスだよ。あそこで交代させるのは、あり得ない。変わってるよなぁ」
ただ、じつはこの時山井投手がマメを潰していたという情報もある。そのことを、とある取材者の方が指摘すると、情の厚い監督らしく、こうおっしゃった。
「それでも、『なんとかがんばってこい』って行かせるだろ、普通。どうしても無理だったのかなぁ」
それから落合氏には、マスコミ対応について、直言したらしい。
「監督は広報も兼ねているんだから、マスコミにもしゃべってやれよって言ったら、『しゃべってもちゃんと理解できるマスコミはいない』というようなことを言うんだ。だから、わかるように説明してやれ、って言ってやったんだけどな」
監督は、落合氏との価値観の相違を感じながらも、落合氏の偉大さ、すごさを認めていた。落合氏の采配を「オーソドックス」と評したのも、守りを重視するご自身の采配との共通点を感じていたからだろう。
監督と落合氏は、戦後たった2人しかいない、日本人右打者の三冠王なのだ。