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新大関・朝乃山に高砂親方が発破「俺の定年までに横綱に!」
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2020.07.29 06:00 最終更新日:2020.07.29 15:05
「初めて会ったときの印象? ないね(笑)。たんなる “大勢のなかのひとり” でしたよ」
熱戦が続く、大相撲七月場所。新型コロナの影響で観客がいつもより少ないなか、ひときわ大きな拍手で応援を受けているのが、新大関の朝乃山(26)だ。
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恵まれた体格を持つ、四つ相撲の本格派。初土俵から、4年あまりで大関昇進を果たした大器だけに、さぞかし入門前から大きな期待をかけられていたのでは? と、師匠の高砂親方(元大関・朝潮・64)に聞いてみたが、返ってきたのは(冒頭の)意外な答えだった。
「私も同じ近大(近畿大学)出身ですから、毎年、相撲部員がうちの部屋に稽古に来るんだよ。もちろん、そのなかに朝乃山もいたんだけど、部員は大勢いるからね。とくに目立っていたということは、なかったよ」
朝乃山は、2016年3月の初土俵から1年で十両昇進。2019年の五月場所で初優勝を果たし、2020年の三月場所では、大関獲りのチャンスを一発でモノにした。
「番付が上がるとともに体も大きくなってきたし、相撲の取り方も、どんどん覚えていった。もちろん、運もあったとは思う。優勝した場所は前頭八枚目で、上位とは当たらなかったし、横綱(白鵬)も休場していた。
しかし、そういうチャンスも、力がないと掴めないわけでね。『運も実力のうち』というようにね」
42年前に、近大から鳴り物入りで角界入り。幾度もの挑戦の末にようやく大関昇進、そして初優勝を果たした師匠は、愛弟子をどう評価しているのか。
「素直で、人の話をよく聞く。そこがいいと思う。力士として、まずなにより大事なのは、人間性ですよ。朝乃山はその点、大丈夫。
相撲の面では、まだ立合いに課題はある。以前よりは、押し相撲の相手にも押されなくなってきてはいるけど、もっと厳しい立合いをしないと。そうでないと、白鵬には勝てないですよ」
そして、朝乃山の代名詞となった「右四つ」。その進化の陰には、ある力士の存在があったと明かす。
「去年の春巡業で、栃ノ心につけてもらった稽古、あれが大きかった。向こうも同じ右四つで、右四つの相撲の取り方、左上手の取り方を勉強したわけです。教えてもらったことを素直に吸収できたのが、成長に繋がったんだね」
おかみさんの長岡恵さんも、朝乃山の成長を目の当たりにしてきた。
「関取としての、そして今は大関としての自信・自覚がついてきているなと思います。私たちのような昭和世代と違うのは当然ですけど、浮ついたり、ちゃらちゃらしたところがないんですよ。コロナ対策にしても、人から言われてやるんじゃなくて、自分で考えて行動しています。
朝乃山だけではないですが、部屋の力士たちが成長していくのを間近で見られるのは、本当に幸せなことです。ただそれも、あと半年足らずで終わりかと思うと、本当に寂しくて……」
以前から「和製の横綱を作りたい」と言ってきた高砂親方は、今年12月で65歳となり、定年を迎える。七月場所を含め、残るは3場所。横綱昇進の条件は、「大関の地位で2場所連続優勝、またはそれに準ずる成績」(横綱審議委員会の内規)だ。
「自分が親方のうちに、というのはなかなか難しいだろうけど、将来は横綱になれる存在ですよ。いまの相撲界は、世代交代の端境期というチャンスでもある。やっぱり、運も味方しているね」
すると、隣でほほ笑んでいたおかみさんが、ひと言。
「いいんですよ、遠慮しないで親方がいるうちに横綱になってくれても。あ、こういうこと言うと、プレッシャーになっちゃうのよね。今のダメ、取り消し、取り消し(笑)」
こんな明るい雰囲気の高砂部屋だからこそ、穏やかな性格の朝乃山の才能が開花した、といえるだろう。
初優勝で米国大統領杯を授与され、異例の無観客場所で大関昇進−−。ここ一番に強い「持ってる男」なら、師匠の “花道” を飾ってくれるかもしれない。
コーディネート・金本光弘
(週刊FLASH 2020年8月11日号)