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野村監督「野球以外は紳士」ホテルマンの人生を支えたひと言

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2020.11.05 06:00 最終更新日:2020.11.05 06:00

野村監督「野球以外は紳士」ホテルマンの人生を支えたひと言

 

 2020年2月11日に惜しまれつつ亡くなった、野村克也さん(享年84)。15年間近くマネージャーを務め、野村さんを人生の師とあがめる小島一貴さんが、野村さんの知られざる素顔を明かす。

 

 

「怖い人」というイメージが先行する野村監督だが、野球関係者以外には、とても紳士的に振る舞う方だった。たとえば、こんなエピソードがある。

 

 

 監督は指揮したすべてのチームにおいて、「長髪、茶髪、ヒゲ」を禁止していた。はたから見ていても、それらを嫌っているのが見て取れた。

 

 試合前の練習中にベンチで記者団に囲まれて日課的に談話をしていたのだが、茶髪の女性記者を見つけると、「せっかくの美しい黒髪があるんだから、黒い髪のほうがいいよ」と言っていたほどだ。

 

 あるシーズンオフにおこなわれた、都内のホテルでのインタビュー取材。なんと、カメラマンの方がヒゲをたくわえているではないか。私は内心、「監督は、どう接するんだろう。無視するんだろうか、それとも非難するんだろうか」とヒヤヒヤしていた。

 

 先におこなったインタビューが終わり、いよいよ掲載用の写真を撮る場面を迎えた。カメラマンの方が、監督にポーズの注文をする。やり取りのさなか、カメラマンの方が思い出したように「ヒゲはやしていてすみません」と、苦笑いをしながら言った。

 

 私がハッとして監督のほうを見ると、笑みを浮かべながらこうおっしゃった。
「あなたは、いいんだよ。ヒゲ禁止は、俺の領域での話だから」

 

 また、こんなこともあった。野村監督には、大阪で定宿にしているホテルがある。開業何十年という老舗の有名なホテルだ。楽天の監督を退任して数年後、都内近郊での仕事以外ほとんどしなくなったころ、大阪で対談の仕事が入り、久しぶりにそのホテルに宿泊した。

 

 チェックイン後、50代と思しきポーターの方が、監督のカバンを持って案内してくれた。エレベーターを待っていると、「野村監督、じつは私、ポーターになって2日めに監督の荷物を運んだことがあるんです」と、話しかけてきた。「へぇ」と驚いた顔をしていた監督に、その方が続ける。

 

「監督が『あなた、新人か?』と話しかけてくださって、『はい、2日めです!』とお答えしたら、『そうか、ルーキーか、頑張れよ』とおっしゃってくださいました。

 

 そのとき野村監督は、すでにスーパースターで、私はとても緊張していました。そんなときに頂いたお言葉に感動して、今日まで、この仕事を続けてきました」

 
 監督は「そんなことあったの」とぶっきらぼうな言葉を返していた。とても優しい笑顔を浮かべながら。

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