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キャリア35年の元NHKアナが語る「大相撲」中継現場「伝説の一番で思わず『押せ』と」

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.01.24 06:00 最終更新日:2021.01.24 06:00

キャリア35年の元NHKアナが語る「大相撲」中継現場「伝説の一番で思わず『押せ』と」

刈屋氏

 

 長い経験のなかで特に印象深い大相撲中継は、2012年の五月場所、旭天鵬が平幕優勝した千秋楽だという。

 

「旭天鵬が関脇の豪栄道に勝ち、栃煌山との優勝決定戦にも勝った。まずはそれにびっくりしたんですが、それよりも稀勢の里が負けた一番ですよ。

 

 あの場所、稀勢の里は終盤まで優勝争いのトップを走っていたんですが、そこから連敗。千秋楽は把瑠都に勝てば優勝決定戦に持ち込める。その大事な一番で、土俵際まで相手を追い詰めながら、最後は逆転の上手投げを食らってしまった。

 

 私、あのときの実況で思わず『押せ!』と言ってるんですよ。長い歴史を誇るNHKの大相撲中継で、『押せ』なんて言ったのは、おそらく私だけでしょう」

 

 そしてもうひとつ、忘れられない光景としてあげたのは、昭和最後の一番。1988年の十一月場所千秋楽結びで千代の富士の連勝記録を、大乃国が止めた取組だという。

 

「ほとんどの取材陣は千代の富士が勝つとみて、東側にいました。私はまだ新人なので、大乃国の談話を取る担当です。花道には人も少なく、私はそこで “あの一番” を見たんです。

 

 勝ったあと、大乃国が真っ白になって花道を引き揚げてきます。見たことがないほどの座布団が飛び交い、薄暗くなった花道で、大乃国の姿はまるで、夜光塗料を塗ったかのように浮かび上がって見えました。

 

 人間は、すべての力を出し切ってしまうとこうなってしまうのか、数秒間に全精力を注ぐ――これが相撲の魅力なんだ、と確信しました。『これさえあれば、相撲はこの先もずっと残る』と思いました」

 

 元日の中高生の大会でも、相撲の持つ力はおおいに感じられたという。

 

「これまで積み重ねてきたものを、この一番に懸ける。そういう相撲を取っていましたよ、彼らは。本当に開催できてよかった」

 

 38年間勤めたNHKを2020年4月末に定年退職。現在は東京・立川市にある立飛ホールディングスでアマチュア相撲などのスポーツプロデューサーとして活動している。

 

「ルールが簡単で場所も取らない、道具も必要ない。相撲は世界的なスポーツになる要素を持っており、実際にヨーロッパなどでは、男女ともに競技人口が増えています。

 

 まずは東京でアマチュアの国際大会を開くことで、その裾野を広げていきたい。そして相撲に限らず、若いうちから競技をひとつに絞らず、複数の競技を掛け持ちでやることを常識にしていきたい。『そうしないと、日本のスポーツ文化は先細りしていく』という危機感を持っています」

 

 定年後も、5年間はNHKに残ることもできたが、あえて次のステージを選んだという名アナウンサー。その情熱は、まだまだ尽きそうにない。


かりやふじお
1960年生まれ。静岡県出身。早稲田大時代は漕艇部で活躍。1983年、NHKに入局。看板スポーツアナとなり、大相撲や五輪の中継を担当。2020年4月末に定年退職し、現在は株式会社立飛ホールディングスの執行役員を務める

 

(週刊FLASH 2021年2月2日号)

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