では、古巣・広島はどうか? 緒方氏は先日、著書『赤の継承』を上梓した。書中では、「監督2年めでは違った景色が見えた」と記している。広島の佐々岡真司現監督も、ちょうど2年めを迎える。
「私も1年め、勝てばCS進出の最終戦で采配ミスをしてしまった。投手交代時、情に流されて判断ミスをし、その結果敗れてしまった。その試合は、33年の野球人生のなかで、間違いなくいちばん心に残っている試合です。
だからこそ2年めは反省し、決めたことは変えない信念のようなものが生まれた。結果、見えていなかった景色が見えるようになってきたんです。
佐々岡監督の1年めはコロナで開幕が遅れ、無観客試合が続いた。そうした異常事態のなかで、いろんな苦労をした。でも、その経験は大きな糧となって2年めに生かせるはず。
私がそうだったように、1年めより2年めと、やれなかったこと、行動に移せなかったことができるようになります。だからこそ佐々岡監督には期待しているし、目指す野球をぶれずにやってほしいですね」
2020年は5位に沈んだカープが、巻き返しはあるのか。
「2020年は、エースの大瀬良大地ら、主力に怪我人が多すぎた。その彼らが帰ってくれば、巨人の対抗馬になれるでしょう」
たしかに主力投手に怪我人が多かったが、半面、九里亜蓮が一本立ちし、なによりも新人の森下暢仁の活躍が際立った。
「森下は素晴らしい活躍でした。2年めのジンクス? 当然ありますよ。対戦相手に研究されるわけですから。でも、技術的にも完成されている投手ですから。
あえて心配する点をあげるなら、一年を通して投げるという、これまでの経験にないことをやったわけだから、疲れは残っているはずです。となると、気持ちと体のズレが多少あると思います。それを『あれっ?』とは思わずに、焦らずやってほしい。
キャンプでしっかり体をつくれば、2020年シーズン並みの成績、もしくはそれ以上の結果を残せると思います。大瀬良、九里らと投手陣を引っ張る存在になってほしいです」
広島は、補強も的確だった。丸佳浩の穴が埋まらないとみるや、マイナー6年で通算151本塁打のケビン・クロン内野手(27)を、投手も即戦力と期待される栗林良吏(24)をドラフト1位でトヨタ自動車から獲得した。
「クロンは身長196cmのパワーヒッターですが、引っ張るだけではなく、逆方向にも打てる。日本の野球に合った、能力の高い選手です。
栗林に関しては、カープファンは2020年のドラ1・森下の活躍を記憶していますし、その姿を重ねるはず。最速153kmの速球に、カット、フォークもいいので、私自身も栗林には期待しています」
「ほかに期待する選手は?」と問うと、「東京五輪を考えれば、侍ジャパン候補の選手は外せない」と続ける。
「ヤクルトは若き逸材の村上宗隆が、2020年からどれだけ成長した姿を見せてくれるのかも楽しみですね。あとは、残留した菅野は当然代表入りするだろうし、ソフトバンクの千賀滉大とともに、五輪では先発の柱として期待しています」
そして、緒方氏がいちばんの期待を寄せるのは、やはり広島の鈴木誠也(26)である。緒方氏は、鈴木がまだ22歳のときに四番に据え、球界を代表する打者に成長させた。
「私が彼を育てた? いや、それは本人の努力。それしかありません。想像を絶するくらいバットを振りましたし、ひたむきに野球を愛して、努力した選手なんです。
だからこそキャンプで鍛え、いい形でシーズンに入ってもらいたい。そして、侍ジャパンの四番として、ぜひ金メダルを獲得してほしいですね」
鈴木に関しては、「いまメジャー関係者がもっとも注目している選手」とも言われる。
「私も、そう思いますね。メジャーで活躍できるだけのものを持っていますよ。海を渡った日本人で、野手で大活躍した選手はイチローと松井秀喜くらいで、数は少ない。誠也には、彼らに続いて大活躍できるポテンシャルがあると思っています。
メジャー志向? わからないですね(笑)。私が監督を務めていたころは、彼もまだ若く、感覚的にはまだ出てきたばっかりでしたから。それが、いつの間にか力をつけ、『そういう年齢になったんだ』とあらためて思いますよ」
ペナント、日本シリーズ、そして東京五輪と、ファンには楽しみな一年が始まろうとしているが、心配なのは新型コロナウイルスの影響だ。緒方氏は「開催云々より、選手に与える影響が問題」と語る。
「野球に限らず日本中がそうだと思いますが、ものすごく制限され、気を遣って生活しなければいけない。キャンプではホテルに缶詰め状態だろうし、シーズンでは厳しい戦いを続けるなか、外食などでリフレッシュすることができません。これは選手にとっては非常につらいこと。
でも一般の方も同じなので、もう一度そこを考え、『我々はファンあっての野球だ』ということを見つめ直さなければなりません」
おがたこういち
1968年、佐賀県生まれ。鳥栖高校を経て、ドラフト3位で1987年、広島東洋カープに入団。盗塁王3回、ゴールデングラブ賞5回。2009年に現役引退。2015年に監督に就任し、2016年、2017年、2018年と、球団初のリーグ三連覇を達成。2019年、シーズン終了とともに退団
写真・中野章子
(週刊FLASH 2021年2月9日号)