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ラグビー新リーグで検証「スポーツのプロ化」に不可欠なものとは

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.02.26 16:00 最終更新日:2021.02.26 16:00

ラグビー新リーグで検証「スポーツのプロ化」に不可欠なものとは

 

 2022年1月、日本のラグビーが新リーグとなる。
 そのスタートは2019年11月、日本ラグビーフットボール協会内に立ち上げられた「新プロリーグ設立準備委員会」だった。アジアで初めて開催されたワールドカップが、日本代表のベスト8入りで成功裡に終わった直後のタイミングである。

 

 

 ラグビー界がプロ化、新リーグ化へ動き出したのは、それまで行なわれてきた社会人リーグ「ジャパンラグビートップリーグ」のままでは、持続的発展が難しいとの認識があったからだろう。

 

 バスケットボールは1チーム5人、ハンドボールは7人、サッカーは11人で行なわれるが、ラグビーは15人だ。人数が多いうえに、ケガのリスクが他の競技より高い。

 

 そのため、1チームは45人から50人で編成される。バスケットボールの3倍以上だ。しかも、ラグビー強豪国から有名な指導者や選手を迎えているチームも少なくない。彼らには数千万円単位の年俸が支払われる。

 

 ラグビーチームを保有する企業は、年間15億円前後の運営費を負担している。業績が上がっているのならいいが、業績不振に陥ったら――。福利厚生や社内の士気高揚、自社の対外的宣伝と位置づけられるスポーツチームを、不確実性の高いなかで継続支援していけるだろうか。

 

 Bリーグが2シーズン目を迎えた2017~18シーズンに、川崎ブレイブサンダースの経営権が東芝からDeNAへ譲渡された。東芝グループの経営危機が理由だった。チームは2021年現在もたくましく存続しているが、どんな企業も、どんなチームも、同様のリスクを内包していると言っていい。

 

 ましてこれからは、新型コロナウイルスと付き合っていかなければならない。ワクチンが開発されて感染が収束しても、企業の業績がコロナ以前に戻るかは不透明であるし、また新たなリスク案件が発生するかもしれない。

 

 そうであれば、少しでも自分の努力で稼いで、自走できる環境を作らないと、何か起きた時の経済的損失が大きすぎて、従来の企業スポーツ型モデルとしては続けていけないだろう。

 

 昭和や平成のままのスポーツモデルを踏襲するのは、もはやナンセンスだ。サステナブルなスポーツのモデルにいくつかの方法があるなかで、ラグビーも退路を断つという意味でプロ化こそが最適解と考える。

 

 ラグビー新リーグには、25チームが参入の意思を表明した。そのうち24チームは親会社を持つ。純粋なクラブチームは1つだけだ。

 

 新リーグにチームを送り込む24の親会社が、「今後10~20年は必ずチームを保有します」とコミットするなら、プロ化にこだわらなくてもいいかもしれない。しかし、プロチームとアマチュアチームがリーグ内に混在したりしたら、試合の運営1つとっても利害が対立する。かつてのバスケットボール界のような混乱に陥りかねない。
 

 より根本的な疑問として、10年以上の長期的なスパンでチームを保有できる企業があるかどうかに、私は小さくない不安を覚える。新リーグに参入するチームに課せられる要件の一部を、以下に抜粋する。

 

◯組織要件として、事業機能を持つ。ホストゲームのチケット販売、大会の自主運営を目指す。
◯チーム名に地域名を入れる。企業名をチーム名に入れることについては任意とする。
◯ホームエリアを決める。
◯施設要件として、1万5000人を目途としたスタジアムを確保する。
◯財務要件として、財務の可視化を目指すこと。
◯組織体制として、世界最高峰リーグにふさわしい選手を獲得すること。

 

 これらの要件を満たすことは、25のクラブにとってどれぐらいのハードルだろうか。

 

 私の感覚では高くない。法人形態に関する事項はなく、「目指す」という表現が存在している。またスタジアム要件も「所有・運営」でなく、「確保」という表現にとどめている。

 

「世界最高峰のリーグにふさわしい選手」というあいまいな定義にしても、ワールドカップ出場経験のある各国代表クラスが、2021年1月に開幕予定だったトップリーグでプレーする。ラグビーワールドカップで世界に好印象を与えた日本の、それも新リーグとなれば、世界トップクラスの選手を招聘できるだろう。

 

 多数のクラブが、要件をきちんと揃えるに違いない。そこで、どうやってディビジョンを振り分けるのか。25チームは3つのディビジョンに分けられるのだ。

 

 ディビジョン1の上位チームは、おそらく誰でも納得できるだろう。その一方で、ディビジョン1で下位が想定されるチームと、ディビジョン2で上位を争うと思われるチームに、明確な実力差や経営力の差を見つけるのは難しい。

 

 新リーグ法人準備室長で日本ラグビー協会の谷口真由美理事は、新リーグの直前に開催される2021年のトップリーグの成績を加味する考えもあるとして、ディビジョン1については「リーグの意図をきちんと理解し、リーグの発展、日本ラグビーの発展のために頑張ってくださるチーム、かつ強いチームで構成していきたいという意図はある」と説明する。

 

 現状では抽象的と言われてもしかたのない基準しか、用意できていないということである。

 

 新リーグ法人準備室はもう一歩前へ出て、ガバナンスを強化していくべきだと思う。

 

「ガバナンス」と言うと様々なものを想起してしまうが、私からするとガバナンスとは「リーグの強いリーダーシップ」であり、「リーグとしてのアイデンティティの確立」である。

 

 リーグから見ると、クラブ、ファン、選手、スポンサー、メディア、行政など多種多様なステークホルダー(利害関係者)が存在する。クラブの意見は尊重しつつも、それだけで意思決定しては、業界全体の視点や中長期視点からは適していないケースもある。

 

 リーグは、中長期的に「あらゆるステークホルダー」がハッピーになるように、能動的かつ独立的に展開していくべき機関なのである。

 

 いま現在「1」の利益を「1.1倍」とか「1.2倍」にしたいのなら、チームごとの努力でも達成可能だ。しかし、「1」を「1.5倍」や「2倍」「10倍」にしたいのなら、当該競技の運営を主体とする独立したリーグ法人組織に機能を集約させ、意思決定をはかっていくべきである。チームに任せきりでは収益増に限界があるのだ。

 

 

 以上、葦原一正氏の新刊『日本のスポーツビジネスが世界に通用しない本当の理由』(光文社新書)をもとに再構成しました。これからのスポーツビジネスに本当に必要なものとは?

 

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