「こんな悔しい試合は初めて。5三振は練習試合では経験があるけれど、公式戦では初めてです」
試合直後、甲子園の申し子である清宮幸太郎は落ち込んだ表情でそう語った。清宮(2年)が主将を務める早稲田実業は、秋季東京都大会決勝戦で日大三を8対6で降し、11年ぶり10回めの優勝。選抜出場はほぼ当確となった。
だが、高校通算74本塁打を誇る怪物は絶不調だった。
この試合、日本一に輝いた日ハム・栗山英樹監督(55)も視察に訪れていたが、7回裏、清宮が4三振めを喫すると席を立つ。清宮の印象を尋ねると、「今日は勘弁して」と、足早に球場を去っていった。
そんな絶不調のスラッガーを救ったのが、6人の「越境入学組」だ。しかも、いずれもまだ1年生。
サヨナラ弾を放った4番・野村大樹三塁手。先発した中川広渡投手、中継ぎ登板した赤嶺大哉投手、3番手の石井豪投手と、好リードした6番・雪山幹太捕手。
そして、初回に大飛球を好捕するなど、華麗な守備が光った2番・横山優斗中堅手だ。
なぜ、全国各地の有望選手が、早実に集まるようになったのか。
「10年ほど前から、早実と慶應高校(今秋神奈川県で優勝)の両校野球部は、関東のみならず全国から、学業優秀な有望選手を競い合うようにして集めるようになった。とくに早実は、2006年の斎藤佑樹を擁しての全国制覇が起爆剤となっている。今では、それぞれ10名前後の部員が推薦入学を果たしている」(野球専門誌記者)
両校とも、偏差値70以上を誇る全国屈指の難関校。慶應大学野球部OBが、両校の推薦入学の実情を明かす。
「早実と慶應野球部の推薦条件のレベルは高いが、内情はほぼ同じ。しかも、甲子園球児を慶大や早大へ推薦で入れるよりも、慶應高や早実へ入れるほうがハードルは低い。
つまり、高校のほうが推薦枠が多く、内部進学で大学に進める早慶ブランドに魅力を感じている親は多い。来春、早実は清宮効果で、例年以上に有望な入部希望者が殺到していると聞く」
早実は、選抜大会出場を確実にしたが、気になるのは清宮の打撃不振。野球評論家の里崎智也氏は指摘する。
「彼の最大の長所はパワーがあって、ポイントを引き込んで遠くに飛ばせるポテンシャル。ただ、自分が決めてやるとか、本塁打を打ちたいという気持ちが強くなりすぎると、打つポイントが前になって、今回のような空振りをしてしまう」
復活した清宮と6人の越境ルーキーが、早実の快進撃を支えるはずだ。
(週刊FLASH 2016年11月22日号)