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プロ野球「試合が長すぎ問題」の背景にサイン盗み/7月26日の話

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.07.26 06:00 最終更新日:2021.07.26 06:00

プロ野球「試合が長すぎ問題」の背景にサイン盗み/7月26日の話

7月6日のヤクルト―阪神戦でも「サイン盗み」疑惑で一触即発に

 

 1946年7月26日、西宮球場(当時)でおこなわれた大阪タイガース対パシフィックは、プロ野球公式戦として最速で決着がついた試合である。

 

 1対0で大阪タイガースに軍配があがったが、試合時間はたったの55分で、いまなおプロ野球最短記録とされている。

 

 野球は、あらゆるスポーツのなかでも長丁場になりやすい。このため、2015年2月、日本野球機構(NPB)は、試合時間の短縮を目指し、「ゲームオペレーション委員会」を設置した。

 

 

 しかし、2020年シーズンでの平均試合時間は3時間13分。スピーディーというにはほど遠い。

 

 なぜプロ野球では試合時間の短縮が叫ばれているのか。プロ野球に詳しいノンフィクション作家・長谷川晶一氏に話を聞いた。

 

「サッカーやラグビーなど、試合時間が決まっているスポーツと異なり、野球は試合時間が定かではありません。そのため、試合が押すと、観ているファンのその後のスケジュールに支障が出るなど、マイナス面があります。

 

『ハンデ』とまでは言いませんが、野球は、観る側にとっても、運営側にとっても、試合時間が決まっているスポーツと比較すると不確定要素が大きすぎるんです。

 

 試合そのものが長いうえ、延長戦に入ると4時間を超えてしまうこともあります。この場合、たとえば18時に試合が始まっても、試合終了は22時を過ぎてしまいます。

 

 以前は23時頃までかかる試合もありました。そうすると、終電に乗り遅れるなどさまざまな弊害が生じてきます。

 

 もちろん、戦略上、試合が長くなることはあるのですが、その一方で、ダラダラとした印象を受ける試合も少なくありません。なので、僕自身は試合時間の短縮化に賛成です」

 

「試合時間短縮論」には、スマートフォンの普及によって利便性が向上した現代特有の事情がある。

 

「たとえば、ユーチューブを頻繁に観る世代の人たちは、コンパクトに結論だけを知りたい、という意識があります。映画も、最近は映画館でなく、ネットフリックスなどで観る人が多いですよね。このとき1.3倍とか1.5倍みたいに早送りして、2時間の映画を90分で観るのが当たり前だそうです。

 

 こういった世の中の風潮を考えると、野球の『打つのか打たないのか』『勝つのか勝たないのか』みたいなことを、3時間以上かけて観るのは退屈だと思う人も増えていると思われます。

 

 野球人気の低下や、観客動員の減少を食い止める意味では、スピーディーな野球を実現するのは、絶対にいいことです。球場でも、目の前で試合が展開されているのに、スマホでゲームしたりする人も、わりと見受けられますからね」(前出・長谷川氏)

 

 では、どうすれば試合時間は短くなるのだろうか。長谷川氏は、反則行為とされる「サイン盗み」をキーワードにあげた。

 

「サイン盗み」とは、主に二塁のランナーが、相手キャッチャーからピッチャーに出される「サイン」を目視で確認し、なんらかの仕草で、バッターボックスの打者に投球内容を伝えるものだ。

 

「これは、理想と現実のような話になるのですが、プロ野球の試合に時間がかかるのは『相手にサインを盗まれないため』という要素が大きいんですよ。

 

 1970年代に『乱数表』というものがありました。バッテリーは、それぞれのグローブに、縦横4マスほどの表をつけるんです。それで、たとえば『3の2』というと、縦に3、横に2、のマス目に書かれた記号を確認して、◯だったらストレート、△だったらシュート、×だったらカーブとか、球種を決めていたんです。

 

 これは『サイン盗み』を防ぐためですが、サイン交換にものすごい時間がかかるようになり、禁止されました。その後は、各球団で『スポーツマンシップに反するようなサイン盗みはやめよう』という話になっています」(同)

 

 反則行為とみなされている「サイン盗み」こそが、プロ野球の試合時間が長い大きな原因だ。

 

「それでも、サイン盗みを疑って一触即発のトラブルになるくらい、いまでも各球団は疑心暗鬼です。サイン盗みを防ぐため、サインの複雑化・高度化が進み、わかりづらいサインになると、どうしても、先ほどの乱数表みたいなかたちで、試合は長くなります。

 

 試合時間を短縮するには、結局は『サイン盗みをやめる』という理想論になってしまうんです。でも、もしかしたら相手はサインを盗んでいるんじゃないかとお互いに疑っている以上、試合時間の短縮は難しいかもしれません」(同)

 

 よりスピーディーなプロ野球の実現へ……NPBの試行錯誤は、これからも続きそうだ。

 

写真・時事通信

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