「横綱がうちの部屋に移ってきたとき、自分も当時の横綱と同じ幕下だったんですよ。あのころ、稽古で一日100番取っていたのがいい思い出です。あの稽古のおかげで、横綱も自分も強くなれたと思っていますから」
そう語る前頭・照強は、年齢は下だが、照ノ富士の兄弟子になる。
「向こうは幕下から一気に大関に上がりましたけど、自分はなかなか上がれず、大関の付け人を半年やらせてもらいました。
そのころは、それほど仲がよくなかった。でも、照ノ富士関が怪我をして大関からどんどん番付が下がって関取じゃなくなっても、自分はずっと『大関』って呼んでいたんです。
そのあたりから一気に仲よくなって、今じゃ関取のなかでいちばん仲がいいんじゃないですか」(照強)
性格にも変化があった。
「以前は『自分が一番だ』って感じがすごくあったんです。それが、つらい経験をしてから、ずいぶん丸くなりました。
横綱がすごいのは、やっぱり気持ちの強さでしょう。あそこまで落ちて、這い上がって、横綱になった人はほかに誰もいないわけですから。すごいのほかに言葉がないですよ」(照強)
復活を果たした今も、けっして万全ではない照ノ富士の膝。力士の生命線ともいえる膝を支えているのは、ドイツ製の「ゲニュTrain」というサポーターだ。国内でその製品を扱うパシフィックサプライ社の筏政人さんが語る。
「昨夏、照ノ富士関とお会いした際に、とにかく膝の痛みをなんとかしたいと。本場所が始まると日を追うごとに痛みが増し、終盤は本当にしんどいと話されていました。
特注サイズだったのでドイツに発注して、昨年十一月場所から使っていただいています」
サポーターの素材はニットとシリコン。筋肉に適度な圧をかけることで、関節部分を安定させる製品なのだという。
「今は肘や足首、腰のサポーターも使っていただいています。稽古用に、膝の横の部分に金属製の支柱をつけたものも作りました。
照ノ富士関は『すごく動きやすいし、関節が安定する。最後のあとひと押しが欲しいところで、このサポーターが支えてくれる』と話されています」(筏さん)
「明るくて無邪気、それでいて繊細な面がある」と分析するのは、兄弟子の安治川親方(元関脇・安美錦)だ。
「私も現役中は怪我が多かったので、照ノ富士とは怪我の話をよくします。その状態なら冷やしたほうがいいとか、治療法をアドバイスするんですが、まわりの意見を素直に聞いてなんでも吸収しようとする姿勢は、彼の大きな強みですね」(安治川親方)
これからどんな横綱になっていくのだろうか。
「横綱はどうあるべきか、周囲からどう見られているかという意識はかなり強く持っています。モンゴル出身力士に対してネガティブなイメージを持つ人も少なくないですが、本人はモンゴル出身ということでひと括りにされたくないという気持ちが強いんです」(安治川親方)
そして「太く短く」力士人生を全うする考えだという。
「とにかく、今できることを精いっぱいやる。今は一番一番、15日間を全力で相撲を取り切ることが大事。その結果、優勝できればいいということです」(安治川親方)
今年8月に日本国籍を取得し、名実ともに “日本の横綱” となった照ノ富士。横綱昇進の口上で述べた「不動心」と「横綱の品格」を胸に、土俵へ上がる。
(週刊FLASH 2021年9月28日・10月5日号)