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「野村克也さんなら新庄剛志監督に期待するはず」とマネージャーが語る理由…生前に明かした不真面目野球のススメ
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.10.29 17:50 最終更新日:2021.12.12 22:05
2020年2月11日に惜しまれつつ亡くなった、野村克也さん(享年84)。15年間近くマネージャーを務めた小島一貴さんが、野村さんと新庄剛志との知られざるエピソードを明かす。
新庄氏が、北海道日本ハムファイターズの監督に決定した。私が野村監督のマネージャーを務めていたころ、取材で監督は新庄氏に関する質問を受けることも少なくなかった。
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監督による選手としての新庄氏の評価は、典型的な天才バッターであり、肩や足の能力はもはや動物的で、自信家を通り越して過信家である、というものだった。ただし、監督の仕事のひとつは選手の自信を育てることであり、過信家であることは悪いことではない、ともつけ足していた。
また、監督と新庄氏との関係でよく話題になるのが、阪神監督時代、外野手だった新庄氏にキャンプで投手の練習をさせたことだ。監督曰く、「どのポジションをやりたいんだ?」と尋ねたら、「そりゃ、ピッチャーですよ」と答えたのでやらせてみたのだという。
この件の真意について尋ねられると、監督はいつも「人を見て法を説け」という言葉を引き合いに出して、このように語っていた。
「選手操縦法などという決まったものはない。選手それぞれタイプが違うのだから扱いも違ってくる。新庄は理屈では動かないタイプ。やってみなければわからないだろうから、やらせてみたんだ」
そして、新庄氏が現役を引退するときにはこんな心配をしていた。「まだやれるのにもったいない。野球以外で1億稼ぐのは大変だぞ、と話したら、あっけらかんと『監督、1億稼ぐのなんて簡単ですよ~』って言うんだ。大丈夫かな、アイツ」
さて、そんな新庄氏が監督になると聞いたら、監督はどうボヤくだろうか。
まず、監督は「外野手出身の監督は成功しない」と常々口にしていた。根拠として、外野手は守備についているときに試合の流れなどを考えることをしないから、だという。
守備位置がズレていればベンチから指示が出るし、選手によっては守備についてからもまだバッティングのイメージトレーニングをしていることもあるという。したがって、外野手出身の監督にするなら優秀なヘッドコーチが必要、とも言っていた。
また、「極端なことをいえば監督は裏方。目立ちたがりはダメ。功は人に譲れで、功は選手に譲るのが監督」「今の監督の条件は能力ではなく、明るい、感じがいい、ゴマすり。それで監督の人材難になった」とも言っていた。誰が見ても明るく目立ちたがりに見える新庄氏が監督になることについて、監督もかなり心配になるだろうと思う。
ただその一方で、監督はこのようなことも言っていた。
「監督たる者、見えないもの、人が見ないものを見ることが大事」
「勝負事は不真面目なところがないと。正攻法だけではダメ。優等生野球では面白味がない」
「勝つ野球もけっこうだが、プロなんだから魅せる野球もするべき。高校野球のような采配は勘弁してほしい」
「監督はある意味で詐欺師。集団の上に立つには、詐欺師的な要素も必要」
これらの言葉に鑑みると、監督が新庄監督に期待するところも多いのではないかと思えてくる。
ある取材で、監督はこんなふうに悩んでいた。
「監督は育てるものなのか、育つものなのか、生まれ持った資質によるのか、それともそれら全部が必要なのか、なんなんだろう……」
野球の話において、監督の話は結論や答えに繋がることが多いのだが、このときはこう言ったきり黙り込んでしまった。
思えば「先入観は罪、固定観念は悪」と、常々口にしていた監督のことだ。「新庄監督、誕生」と聞いて、表向きに口ではおおいに不安だと言いながら、内心ではきっと、期待せずにはいられないと感じるのではないだろうか。
文・小島一貴