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本塁打王に輝いたオリックス・杉本裕太郎 32本の “急躍進” 導いたイチローの言葉

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2021.11.19 06:00 最終更新日:2021.11.19 06:00

本塁打王に輝いたオリックス・杉本裕太郎 32本の “急躍進” 導いたイチローの言葉

ドラフトは10位指名での入団だった

 

「投打とも選手の能力が上がってますが、とくに『四番』が実力を発揮していることが大きいと思います」

 

 いまや球界を代表する “絶対エース” へと成長したオリックスの山本由伸(23)に、チーム躍進の理由を聞いたときの答えが冒頭のコメントである。山本が「四番」と呼ぶのが、杉本裕太郎(30)だ。

 

 

 今季の杉本は打率.301、本塁打32本、打点83と、四番の重責を見事に果たし、球団としては2010年のT-岡田(33)以来となる本塁打王に輝いた。

 

 クライマックスシリーズ・ファイナルステージ第2戦でも、代わりばなの相手投手の初球をとらえ、左翼席へライナーの決勝弾を放った。

 

 しかし、プロ入り後の5年間で本塁打はわずか9本。今季躍進したのはなぜか。

 

「いちばんは、使ってもらえたことですね。出たり出なかったりだったら、チャンスで仕留めなければ次はないと思い詰めていたはずです。それが、昨年の後半から続けて使ってもらえたことで、少し一軍の投手に慣れたり、自信がついたということはありました。余裕があったわけではありませんが、そこが大きいと思います。なんとか一年を通してプレーできました」

 

 コンスタントに出場するきっかけとなったのが、中嶋聡監督(52)が、昨季途中に監督代行に就任したことだった。昨年8月21日、大阪・舞洲の球団施設のサウナで偶然一緒になり、その際、中嶋監督から「一緒に一軍に行くぞ」と告げられた。

 

「すべて監督のおかげです。僕みたいな荒削りな選手を使うほうも、やはり勇気がいったと思うんです。打てない日はからっきし打てないバッターだったので、すごく使いにくかったはずですから」

 

 以来、2人にとってサウナはコミュニケーションの場となっていたが、今では多くの選手が “参加” し、その日の反省会まで開かれている。

 

 気持ちに余裕が生まれた杉本は、多くのものを変えた。

 

「僕は日本の右打者では、楽天の浅村(栄斗)さんがいちばん好きなんですが、軽いバットを使っていると聞いていて、実際に借りて振ってみたらしっくりきた。で、1本いただいて、同じ形のバットを作りました。それも打てるようになった要因だと思います」

 

 バッティングフォームの改造にも着手した。頼ったのが、米3Aなどでプレー経験のある根鈴雄次氏(48)だ。同氏は2017年に横浜市内で「根鈴道場」を開設し、強打者育成に力を注いでいる。

 

「指摘されたのは、前のポイントでしかボールをとらえられていなかったこと。つまり、ボールをもっと体のほうへ呼び込んで打つことができていなかったんです。やはり近くまで引きつけたほうが、そのぶんストライクとボールを判断しやすくなるので、まずはそれを練習しました。ボールを引きつけられるようになると、逆に前で拾ってホームランを打つこともできるようになり、引き出しが増えました」

 

 バットを変え、呼び込んで打つことを覚え、試合に出続けるようになったとき、レジェンドの言葉を思い出した。

 

「僕が入団した直後の2016年1月に、神戸で自主トレ中だったイチローさんとご一緒する幸運に恵まれたんです。そのとき、『ツーストライクになったときの考え方を変えなさい』との言葉をいただきました。それまでは追い込まれてからも、ホームランを狙っていたんです。

 

 でも、投手は追い込んだらホームランを打てる球はなかなか投げてくれないので、『それじゃダメだよ』と。その言葉を今年、急に思い出しました。それでホームランを打ってやろうという考えを捨て、なんとかファールにしたり、きわどい球を見極めたりという練習をしました」

 

 イチローとは不思議な縁があるようだ。今回撮影したカメラマン・ジジ氏は、杉本の手のひらが非常にきれいだったことを強調する。

 

「イチロー、松井秀喜、そして大谷翔平もマメがないんだよ。で、イチローになぜマメがないかと聞くと、『正しいスイングで振ると、マメはできない。マメができるのはつねに力いっぱい握って振るから。力を入れるのはインパクトの瞬間だけでいい』と。杉本も正しいスイングをしているんだろうね」(ジジ氏)

 

 杉本は2015年、ドラフトでオリックスから指名されたが、指名順位は10位。支配下登録選手枠の88人中87番めだった。

 

「下位指名ですが、社会人出身なので即戦力として期待されていた。それで結果が出なかったのに、6年めになるまで残してくれた球団に、ただただ恩返しがしたいと思い、練習してきました。日本シリーズはテレビでずっと見てきた舞台。大暴れしたいですね。怪我から戻ってきた(吉田)正尚にも活躍してほしい」

 

 ここで本誌お決まりの質問、「好きな芸能人は?」と尋ねると、「う~ん」と唸った杉本。

 

「最近、あまりテレビを見ないんでわからないですね」

 

 では、もし日本一になったら何をしたい?

 

「球団の許可が出たらゴルフに行きたい。最近は外食にも行けず、サウナばかりなので」

 

 漫画『北斗の拳』に登場する暴君ラオウ好きで知られる杉本の口ぶりは朴訥で謙虚。大器晩成の主砲は、いまやチームの勝利に不可欠な攻撃の核となった。

 

写真・ジジ

 

( 週刊FLASH 2021年11月30日・12月7日合併号 )

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