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メジャーデビュー延期の鈴木誠也に暗雲…MLB労使交渉で選手たちが絶対に譲れない“ストの大義”

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2022.03.08 16:00 最終更新日:2022.03.08 16:00

メジャーデビュー延期の鈴木誠也に暗雲…MLB労使交渉で選手たちが絶対に譲れない“ストの大義”

メジャー挑戦を目指す鈴木誠也だが、長引くMLBのロックアウトによって移籍先が決まらない

 

 MLBの労使交渉がまとまらない。開幕戦は延期が決定し、年間試合数も削減されることが決まった。今回、元メジャーリーグ通訳で、現MLB選手会公認代理人の小島一貴氏が、労使交渉の舞台裏を解説する。

 

 

 MLBで労使交渉の紛糾により公式戦が削減されるのは1994〜95年以来のこと。1994年8月、MLB選手会は史上8度めのストライキに入った。1994年の残りの公式戦はもちろん、ワールドシリーズがMLB史上初めて中止となり、1995年シーズンは開幕が4月末に遅れて144試合制に短縮された。以後、MLBでは選手側のストライキやオーナー側のロックアウトによって公式戦が削減されることはなかったが、今回ついにそれが生じてしまった。

 

 

 もっとも1995年以降、今日までの間に似たような危機もあった。2002年8月、それまでの労使協定が失効し、新労使協定を締結しなければならなかったのだが、ぜいたく税(課徴金)制度の設定金額をめぐり労使合意が得られず、ストライキ寸前という事態に発展した。ぜいたく税(Luxury Tax)制度とは、チームの総年俸額が一定の金額を超えた場合、超過分に課徴金を課す制度だが、その「一定の金額」をいくらにするかについて、MLBと選手会の交渉が難航したのである。

 

 この年、私は伊良部秀輝選手の通訳としてテキサス・レンジャースに所属していた。交渉期限日が近づくにつれて、労使双方から「一定の金額」についての案が出される様子が報道されていたが、日ごとに歩み寄りは見られるものの合意にはほど遠いように思えた。選手たちは皆、ストライキ決行を覚悟していたし、交渉期限当日には自分のロッカーを片づけ始める選手もいた。ところが幸いなことに、大方の予想を覆して交渉期限当日に両者は合意し、残りのレギュラーシーズンもプレイオフも、もちろんワールドシリーズも、中止されることはなかったのである。

 

 日本のプロスポーツ界においてはストライキもロックアウトも馴染みが薄いし、労使交渉そのものが大きなニュースになることもほとんどない。NPBでは球団削減が問題となった2004年9月に2日間だけおこなれたのが最初で最後だ。そのためか、徹底的な交渉やストライキなどで選手会側がオーナー側に対抗することについて、どうしても理解されづらい面があると思う。

 

 現在のMLBでは当たり前になっているフリーエージェント制度や、最低年俸を年々引き上げる制度はもちろんのこと、移動の飛行機や遠征先のホテル、それに遠征のミールマネー(食事代)の金額といった待遇の向上も含めて、選手会がストライキを含めた徹底交渉でオーナーに対抗しなければ、勝ち取ることができなかったものである。

 

 NPBでも、たとえばFA制度は導入されたが、それはMLBの例を参考にしたのと世の中の情勢に応じたもので、労使交渉の結果ではない。そのためか、人的補償や金銭補償を要するケースもあるなど、不完全なものになっている。日本には日本のやり方があり否定するつもりはまったくないが、アメリカの場合はスポーツ界に限らず自分たちの主張のためには徹底的に戦うことがよくあるし、ファンもある程度はそれを理解してスポーツを見ているように思う。こうした違いは簡単にいえば国民性の違いなのかもしれない。

 

 とはいえ、労使対立で開幕が遅れるという事態は、一人の選手が現役のうちにそう何度も経験することではない。各選手はいつもと違う調整を強いられ、苦労する選手も少なくないだろう。とりわけ日本人メジャーリーガーにとっては、労使対立そのものが馴染みのないもので、事態を理解し、気持ちを整理して調整するのは簡単ではないと思う。なかでもファンがもっとも心配しているのは、これから1年めを迎えようという鈴木誠也選手だろう。こういうとき、調整不足による怪我だけはとても心配になる。

 

 ただ、個人的には鈴木選手の実力についてはさほど心配はしていない。彼の守備力はメジャーでもかなり高いからだ。メジャーではたいていの球団において、4人めの外野手の存在が重要視される。4人めの外野手とは、守備固めで起用されたり、連戦の中でベテランを休ませるために先発出場したりする選手のことである。

 

 そのため守備力が重要となり、鈴木選手は万が一、打撃不振になっても守備力があるので、簡単にマイナーに落とされることはないと思う。かつて、田口壮氏や福留孝介選手、晩年のイチロー氏も、打撃が振るわないときは守備力を活かして生き残っていた。そうやってメジャー枠にとどまっていれば、打撃でも好調の時期が必ず来るはずだ。

 

 2002年に話を戻そう。労使交渉が難航しているなかで、特にベテランの選手たちが口にしていたのは、「俺たちの先輩たちが何十年もかけて戦ってきてくれたから、今の待遇がある。俺たちが戦いをやめてしまったら、その不利益は後輩たちに降りかかる。だから戦わなければならないのだ」という趣旨のことだった。

 

 こうした言葉すら、自分たちのわがままを正当化するものだと捉える人もいるだろうが、一定の説得力はある。当時も今もそう思うーー。

 

文・小島一貴

 

( SmartFLASH )

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