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大谷翔平も仰天3000安打&500本塁打はMLB史上わずか7人…偉業達成直後に禁止薬物で球界追放となったパルメイロ
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2022.06.27 20:30 最終更新日:2022.06.27 20:38
大谷翔平選手の同僚マイク・トラウト選手が、6月24日(現地時間)の試合で本塁打を放ち、マリナーズ戦での通算本塁打数を53本とした。それまでのマリナーズ戦最多本塁打はラファエル・パルメイロ選手の52本。この「パルメイロ」という名前を聞いて、懐かしいと思ったMLBファンも少なくないのではないか。
長いMLBの歴史のなかでも、3000安打と500本塁打の両方を達成している選手は7名しかいないが、パルメイロ選手はその一人。2005年に達成したときはMLB史上4人めだった。その後、パルメイロ選手とレンジャースで同僚だったアレックス・ロドリゲス選手(ヤンキースなど)が2015年に達成して5人めとなった。
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現役選手でも、2018年にアルバート・プホルス選手(現カージナルス)、そして2022年になってミゲル・カブレラ選手(現タイガース)が達成している。ちなみにNPBで達成したのは張本勲氏ただ一人である。
2002年のシーズン、私はテキサス・レンジャース所属の伊良部秀輝投手の通訳だったので、伊良部投手の同僚であるパルメイロ選手とも、幾度となく話をする機会に恵まれた。
春のキャンプでは、上記のロドリゲス選手をはじめ、ホワン・ゴンザレス選手(本塁打王2回)やイバン・ロドリゲス選手(愛称パッジ。1999年にMVP)らが、打撃練習ではまさしくピンポン玉のように、どこまでも飛んでいくような打球を放っていた。
その一方で、パルメイロ選手の打球には違った意味で驚かされた。
上記の3人とは異なり、軽く振っているような柔らかいスイングで打球の初速も勢いがあるように見えない。しかし、打ち上げられた打球はなかなか落ちてこず、外野フェンスを軽々と超えてしまう。
ほかの3人が強い打球を打つことに長けているのに対し、パルメイロ選手は落ちて来ない打球を打つことに長けている、そんな印象だった。
2002年開幕の時点で、パルメイロ選手はすでに2400本以上の安打と450本近い本塁打を打っていた。ゴンザレス選手やパッジがケガでたびたび離脱するなか、37歳となる2002年もファースト/DHのレギュラーとして43本塁打、105打点をマーク。
そんなパルメイロ選手を伊良部投手もリスペクトしていて、打者心理を相談したりすることもあった。
あるとき、オフシーズンにどんな練習をしているのかという話になって、「バッティングは下半身だ。足でしっかりと地面を掴むことができなければ、強いスイングはできない。オフは階段を駆け上がって駆け下りて、という下半身のトレーニングをひたすらおこなっているよ」という答えが返ってきたときは、伊良部投手も私も少し衝撃だった。
最先端で科学的なトレーニングをしているのではないかと想定していたからだ。他方で、落ちて来ない打球を打つのは技術だけではないのだ、ということを教わった気もした。
ところで2002年といえば、アレックス・ロドリゲス選手が当時の史上最高額でシアトル・マリナーズからレンジャースに移籍して2年め。そのため、レンジャースがシアトルに遠征しておこなわれる試合では、A-Rod(アレックス・ロドリゲス選手の愛称)に対して大きなブーイングが巻き起こっていた。
ある試合前のチーム練習でのこと。レンジャースのダグアウトのすぐ上の座席に陣取った若者2人が、「Pay-Rod」と書かれた大きなプラカードを掲げて、A-Rodが登場するや激しいヤジを投げかけた。本人はこれを無視してやるべき練習をしていたのだが、パルメイロ選手が、なんとダグアウトからこの2人に話しかけた。
「そのプラカードはどういう意味なんだい?」と、笑顔で語りかけるパルメイロ選手。「カネで移籍したA-Rodへの皮肉だ!」と主張する2人に対し、「俺たちは野球のプロだ。野球のプロの評価は、サラリーの大小で表現される。FAになるまで時間がかかるし、それまではサラリーも上がらない。FAになったら高く評価される球団に行くのは当たり前じゃないか」と、けっして激高することもなく、諭すように話していた。
その理路整然とした話しぶりに、当の2人も少なくとも練習中はおとなしくしていた。
2005年、レンジャースで同僚だったホセ・カンセコ選手の著書がきっかけで、パルメイロ選手が筋肉増強剤を使用していたという疑惑が生じたが、同年3月のアメリカ議会による聴取では、本人もきっぱりと疑惑を否定していた。
ところが7月に3000安打を達成し、史上4人めの3000&500クラブ到達者となった直後、8月に筋肉増強剤の陽性反応が出て10試合の出場停止となってしまう。わずか5カ月前に、宣誓のもとにおこなった議会での証言ではきっぱりと否定していただけに、この陽性反応によるマイナスイメージは大きかった。
この年限りでオリオールズとの契約も打ち切られ、その後は結局MLBの舞台に復帰することはなかった。野球殿堂の記者投票においても選ばれることはなく、すでに記者投票の対象から外れている。
それにしても、MLBでの3000&500は紛れもない偉業である。大谷選手の登場により今後、日本人パワーヒッターのさらなる活躍に期待したくなるところだが、大谷選手はあまりに別格であるようにも思う。日本人メジャーリーガーが3000安打&500本塁打を達成する日を期待したい。
文・小島一貴(元メジャーリーグ通訳、現MLB選手会公認代理人)
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