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ヤクルト髙津臣吾監督 “ノムさんをいちばん観察した男”の選手を動かす「言葉力」
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2022.08.05 06:00 最終更新日:2022.08.05 06:00
「選手というのは監督のことをよく見ているんだよ。だからこそ行動、言葉には責任を持たなければいけない」
生前、野村克也元監督に本誌が取材した際、「監督の仕事とは」と尋ねると、真っ先に答えてくれたのがこの言葉だった。そして、「とくにベンチ内での言動に気をつけなければいけない」と強調した。
その野村元監督を、「選手としてもっとも観察していた」と語ったのがヤクルトの髙津臣吾監督(53)だった。
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・「“スワローズ・ウェイ”を今の選手に伝えていきたい」
’20年に監督に就任した際も恩師にふれて決意を語った。
「野村監督は本当に言葉を大切にした方でした。聞いている人を引き込む魅力があった。自分も監督となった今、野村さんのように言葉を大切にし、選手と接していきたい。私の役目は野村野球を継承して残すこと。そして新しいものを加え、“スワローズ・ウェイ”を今の選手に伝えていきたいのです」
昨季の日本一で自信をつけた髙津ヤクルトは、今季も絶好調。オールスターまでの前半戦91試合で56勝34敗1引分と2位阪神に10ゲーム差をつけ独走中だ(7月29日時点)。
「この“無双”状態は山田哲人、村上宗隆を中心とした強力打線に加えて、安定した投手陣によって実現しています。とくにブルペンの充実ぶりは群を抜く。ですが、その選手たちを動かす髙津監督の手腕を忘れてはいけない。ふだんのなにげない会話から、ときにズバッと問題点を指摘して選手たちにアドバイスを送る。その“言葉力”が素晴らしい。中継ぎで活躍する田口麗斗は、『監督は気配りがうまい。誰彼分け隔てなく声をかけてくれます。みんなが“監督のために”と思っていますよ』と絶賛しています」(ヤクルト担当記者)
・「絶対大丈夫」
髙津監督の“言葉力”が一躍注目されたのは昨年の9月初め。3位で迎えた、首位阪神との初戦で「チームメイトを信じ、スワローズが一枚岩でいったら絶対崩れることはない。『絶対大丈夫』。これで今年戦ってきた。『絶対大丈夫』とひと言言って打席、マウンドに入ってください」とチームを鼓舞した。
以降、「絶対大丈夫」は、ファンもハッシュタグつきでツイートするなど一大ムーブメントを巻き起こした。
・「俺は君たちを信じている」
監督の言葉は、今季もチームを躍動させている。開幕時には、語尾を強めながら、選手にこう語りかけた。
「君たちはできる男たちだ。モチベーションを上げるのがうまい。ひとつに団結して戦う姿勢を見せてくれる。俺は君たちを信じている」
・「ミスはしょうがない」「喜怒哀楽を出しなさい」
髙津監督は現役時代、ヤクルトに始まりMLBのホワイトソックス、メッツで守護神として活躍。その後も韓国のウリ・ヒーローズ(当時)、台湾の興農ブルズ(当時)、独立リーグの新潟アルビレックスBCと6チームでプレーした(MLBのマイナーは含めず)。指導者としてもヤクルトの前は新潟でプレーイングマネージャーを務めた。
「この多彩な経験がおおいに役に立っています」と前出の記者は続ける。
「メジャーの監督は、凡プレーをした選手に対し、厳しいことは言わなかったそうです。二言三言、声をかけるだけ。それを参考にしたのか髙津監督もヤクルトの選手には、『ミスはしょうがない。あとは自分で解決しなさい』とだけ言う。また韓国や台湾では、選手は感情むき出しでプレーする。それが士気を高めると身をもって知った髙津監督は、『喜ぶときは喜び、笑うときは笑い、怒るときは怒る。喜怒哀楽を素直に出しなさい』と常々言っています」
・「失敗すれば監督である俺の責任」
選手だけでなく、コーチ陣にも自らの考えを言葉でしっかりと伝える。
「俺は投手としていろんなポジションを経験した。だからこそ(投手起用には)自信を持って判断を下せる。もし失敗すれば監督である俺の責任だ」
「いちばん避けなければいけないのは、コーチ陣の意見が割れてしまい、選手に対してのアドバイスが矛盾してしまうこと。だからこそ、みんなの意見を取り入れやすくできるように徹底した話し合いをしなければいけない。そうすれば、より正しい判断に近づけると思っている」
気配りは裏方に対しても変わらない。打撃投手は一日に何百球も投げる。練習が終わると、酷使した肩肘の調子を聞くことが日常になっている。
また、ヤクルトのマスコット・つば九郎の契約更改が毎年人気だが、わざわざその場に立ち会い、つば九郎がFA宣言すると「お好きにどうぞ」と返し、ノリのよさも発揮している。
・「リリーフ陣みんながMVPです」
マスコミを使ったメッセージの発信にも長けている。
「交流戦を制した際、その要因についてのインタビューで『リリーフ陣みんながMVPです』と声を張り上げた。ファンの目が殊勲打の野手や先発にいきがちのなか、縁の下の力持ちであるリリーフ陣を称賛し、さらなるやる気を引き出す。うまいと思いますね」(スポーツ紙デスク)
チームは7月8日から10日にかけ、一、二軍合わせて27選手が新型コロナウイルスに感染し、緊急事態になった。この間の成績は3勝8敗。主力が離脱し、致し方ない結果だった。
・「お前がチームの中心なんだ、お前が引っ張っていけ」
そんななか、試合に出続けた四番・村上は、31打数11安打、打率.355、4本塁打、10打点と孤軍奮闘。大車輪の活躍には“起爆剤”があった。
「髙津監督も感染し、ベンチ入りできなかった。でも、毎日のように村上に連絡し、『お前が中心なんだ、お前が引っ張っていけ!』と鼓舞したそうです。その熱意に応えようと、村上は好成績を残せたのでしょう」(前出・記者)
・「外に目を向けるのは大事なこと」
前半戦を終え、村上は本塁打数と打点で2位以下を大きく離してトップに立つ。打率も3割超えで5位につけ、三冠王すら狙える位置にいる。
その若き主砲はメジャー志向を持ち、髙津監督も挑戦を応援しているという。
「もしチームの四番がメジャー行きを希望したとしても、多くの監督はメディアに対し、言葉を濁してはっきりと話すことはないでしょう。ところが髙津監督は、『外に目を向けるのは大事なこと。そこ(メジャー)を目標に頑張りなさい』と、マスコミを通じてエールすら送っているのです。これまでそんな監督はいなかったし、なかなかできることではありません」(スポーツライター)
・「選手に常に“問い”を投げかける」
髙津監督はあるインタビューで、野村元監督についてこう語っていた。
「野村さんは選手に答えを教えるのではなく、問題を投げかけることで、自分で答えを探させるようにしていました。それは自分に対しても同じでした。だからこそ悩んで悩んで答えを見つければ、自分の身となって、大きく成長できると思っています。自分も監督になった以上は、選手に常に“問い”を投げかけるつもりです」
監督の問いかけで選手は自ら考え、答えを出し、成長する。“ノムライズム”は今も息づく。