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実はヤクルトファン!尾崎世界観と高津臣吾監督の対談が実現「負けたとき、悔しさと楽しさどちらが大事?」

スポーツ 投稿日:2022.03.18 06:00FLASH編集部

実はヤクルトファン!尾崎世界観と高津臣吾監督の対談が実現「負けたとき、悔しさと楽しさどちらが大事?」

写真・関 信行

 

 前年度最下位から、見事に2021年シリーズで日本一に輝いたヤクルトスワローズ。芥川賞候補作家でもある尾崎世界観は、じつは大のヤクルトファン。

 

 憧れの高津監督(正式には「はしごだか」)を前に緊張しながらも、インタビューに臨んだ。異なる経歴を持つ2人の考えが一致した「仕事論」には、今の時代に通ずるキーワードがちりばめられていた……。

 

 

尾崎(以下、尾) 昨年の日本シリーズは、11月27日が最終戦でした。オフは短かったと思うのですが、ファンとしては、まだ今シーズンへの心の準備ができていない状態です。監督としてはオフの短さをどう感じたのでしょうか?

 

高津(以下、高) ふだんよりオフがきっちり1カ月短かったんですよ。本来11月は秋季キャンプですから。僕自身がそれを感じるので、よけいに選手は疲れが取れていないと思います。11月のナイターは野球をやる気温じゃない(笑)。最終戦の神戸はめちゃくちゃ寒かったです。

 

尾 キャンプのスケジュールもその辺りを考慮されましたか?

 

高 去年もそうでしたが、最初の1~2クールは練習量を少なくしましたね。

 

尾 今年の助っ人外国人選手に関してはいかがですか? 昨年は途中からの合流でしたが。

 

高 新外国人がようやく入国できたくらいなので、まだ計算ができないですね。ほかのことを計算しようかと。昨年はオスナとサンタナがシーズン途中から合流できて、日本の野球になじんでくれて、全力プレーをしてくれました。一生懸命で、すごくいい外国人選手です。

 

尾 楽しそうに2人で和気あいあいとしている姿を見られるのが嬉しいです。助っ人外国人選手とはどのようにコミュニケーションをとっていますか?

 

高 スパニッシュと日本語で。挨拶くらいですけど。むこうが日本語で話しかけてくれば、スパニッシュで返します。たまに通訳さんを交えてロッカーで食事しながら「オープン戦いつ出る?」とか、「開幕に合わせていってね」とか。

 

尾 オープン戦に出るタイミングは選手とも相談するんですか?

 

高 聞きます。若手には聞きませんが。(山田)哲人やノリ(青木宣親)には、試合に出たいときを聞いて合わせます。もっと練習したいなら練習させますし。

 

尾 ベテラン選手でも、積極的に試合に出たいという方もいますか?

 

高 もちろん。ピッチャーの球を見たいとか、2打席だけ立ちたいとかもあるので。

 

尾 若手選手とは違うんですね。

 

高 若手は常に競争なので。ゲーム始まれば最初から100%で! という準備でいてくれないと。出遅れると取り残されちゃいます。

 

尾 村上宗隆選手と高橋奎二選手はキャンプスタート時にコロナ陽性で、宮崎での二軍スタートでしたね。

 

高 もちろん本来は一軍ですよ。沖縄に呼ぶことも考えましたが、ハイペースの練習になってしまうので。ゆっくりじゃないですけど、宮崎でしっかり調整してほしかった。

 

尾 それは、ある程度の信頼があるからでしょうか?

 

高 そうですね。こんな時代なので、二軍の映像を見ようと思えば、パッとリアルタイムで見られます。あの2人が二軍スタートというのは計算外。でもコロナだし仕方ないかな。

 

尾 内川聖一選手と川端慎吾選手が二軍キャンプというのが意外でした。

 

高 一軍に呼んでいるベテランは石川(雅規)と青木だけ。ベテランのなかで、中心選手というか、野手のレギュラーと先発ローテーションの選手だけ呼んでいます。内川たちは、しっかり練習して、若い人の生きた教材になってほしい。

 

尾 二軍のほうが、ベテラン選手の調整はしやすいのでしょうか?

 

高 動く分には沖縄のほうがあったかいから、調整しやすいと思います。特にベテランとなると。でも、チーム全体、本人のことなどを考えて、そういう配置にしました。

 

尾 新人選手についてはいかがでしょうか?

 

高 新人選手とか新外国人選手とか、移籍してきた人は、僕はとても大事にしている。昨年はあまり新人は活躍できなかったですが、サンタナ、オスナ、サイ・スニードは、昨年は大きな戦力になった。ドラフト2位の丸山和郁だけ一軍キャンプに選びました。

 

尾 オープン戦やシーズン中、一軍で出場する可能性はありますか?

 

高 もちろん! 見たいですし、シーズンで大きな戦力になってほしいなと思います

 

尾 ふだんはバンドをやっていて、メンバー、スタッフさん、事務所のマネージャーを前にしてどう振る舞えばいいか悩むことが多いんです。よく高津監督の言葉を聞いて、刺激になるというとおこがましいのですが、参考にさせていただいています。どう言葉を紡いでいらっしゃるのでしょうか。キャンプでは、なにか皆さんにお話をされるんですか?

 

高 キャンプイン直前に、私の近親者がコロナ陽性になり、本来ならば、1月31日に一軍の全員を集めたミーティングをやるはずが、できなかった。でも逆に、リモートで繋いで、二軍の選手やスタッフも含めて全員に話すことができた。新しい試みで、これが意外とよかったんです。話す内容は昨年と変わっていない。「去年やったことを忘れるな」「新しいことをやっていこう」。とくに目標は掲げてなくて、「絶対怪我はしない」くらいですかね。昨年日本一になったからといって、新しいことは言っていません。

 

尾 その際は大きなスクリーンを使うんですか?

 

高 いえ、自分のiPadで。各自のスマホなどで見ていたと思います。自宅待機の人もいたし、病院にいた人もいたし。これ、アリだなあと。

 

尾 来年以降もその形式になるのでしょうか?

 

高 アリかもですね。もちろん対面で話すほうが通じるものはあると思いますけど、便利なものはつかったほうがいいなあと。

 

尾 高津監督は、言葉をどのように意識していらっしゃいますか? ファンにも響くフレーズが多く、キャッチーだなといつも感動しています。これを言おうとある程度決めているんですか?

 

高 「これが言いたい」が先にあって、そのためにどういう言葉を使うか、引用するかを考えています。たとえば「頑張れ!」ということが言いたいから、こういう例を出すとか。答えから逆算していきますね。

 

ーー何かの本を読んだり、インプットにはなにか工夫をしていますか?

 

高 インプットは特にしてなくて。よく聞かれるんですが、昨年の9月7日、甲子園のミーティングで言った「絶対大丈夫」については、前日から何かしゃべろうと思っていました。一晩考えて、当日、ホテルから甲子園に向かうバスの中で、これを言おうと思った。集合10分前くらいでしたね。意外と深く練ったわけではないんです。考えてたこと以上のことを言うときもあるし、伝え忘れることもある。

 

尾 言葉が一人歩きすることもありますよね。

 

高 たしかに。言葉って軽くいったことでも、受け取り方はたくさん。響く人もいれば、「は?」って思う人もいる。丁寧に、伝えたいことはこうですよと、伝えていきたいと思います。

 

尾 監督となると、個人ひとりひとりにというよりは、全体に向けて話さなければならないですよね?

 

高 僕の指導者のキャリアは、最初はピッチングコーチ(2014から2016年)だったんです。全部で35人くらいを見る感じでした。二軍監督(2017から2019年)になると選手スタッフ合わせて50人に、一軍監督(2020年から)は全部合わせると、100人以上を気にかける必要がある。段階をふめてよかった。すごくいい経験になりました。

 

尾 その中で、個々に伝えたいときはどうされていますか?

 

高 「すごくしょうもないこと」と「本当に大事なこと」は直接言います。その中間というか、チームとしては、こうしたほうがいいかなと思うことは、コーチに伝えてもらいます。

 

尾 勉強になります。

 

高 世間話をするとき、間に人が入らないじゃないですか。また、たとえば「あなたが好きです!」って言う気持ちを伝えるのに人を介さないですよね。

 

尾 たしかにそうですね。それは現役時代に培ったんですか?

 

高 うーん、僕の基本は、楽しむことなんです。楽しいことを探していきたい。もちろん真剣勝負なので、楽しめないときもありますが、誰かと話すときに、「何か楽しいことあるかな?」「これ直接話したら楽しいな」っていうのを常に見つけています。これは直接話しても楽しくないなと思うことは、コーチに話してもらいます。

 

尾 楽しくやっていくうえで、長いシーズン中、負けてしまうこともあると思います。自分自身、負の感情を大事にしていて、負けたときの悔しさ、うまくいかないときのもどかしさを作品にすることが多いんです。監督としては、楽しさと悔しさ、どちらのほうが大切なのでしょうか?

 

高 それ、めちゃくちゃ大事ですね! うまくいったことを喜ぶことも大切ですが。自分や嫌だったこと、つらかったことを糧にするのは特に大事です。僕はメジャーでの一人暮らしに始まって、韓国、台湾、独立リーグと、ずっとしんどかった想いを持ってプレーしていました。去年日本一になって嬉しかった。でも自分を奮い立たせるのは、悔しかった思い出なんです。

 

ーー具体的には、どんなことが大変だったのでしょうか?

 

高 日本に比べたら、韓国とか台湾は環境がよくない。でもそれは彼らにとって当たり前。自分はどれだけ恵まれてたか痛感しました。彼らの当たり前に慣れなきゃいけない。それがしんどかったです。でも、なぜ他国でプレーしたのかを思い出すんです。「ぜったい野球やめねえぞ」「彼らには負けねえぞ」と思ったから、行った。反骨心やくやしさを持ち続けられた。それは日本でプレーしていたら絶対気づかないところでした。それはよかったと、後から思うんですよね。でも現地に行っている最中は、本当に大変でした。

 

尾 それは最後までずっとですか?

 

高 はい。韓国はまず文字がわからない、台湾は漢字なので、「あれ、ご飯屋さん?」「あんま? マッサージ屋さん?」とかなんとなくわかりました。でも、そういう違いを知るのも面白かった。また帰りたいなと、後になって思います。

 

尾 負の感情という意味では、昨年9月13日の中日戦での、審判の判定問題についてはとてもモヤモヤしました。でも、最後にベンチに向けて「明日頑張ろう」と監督が言っているのを見て、すごくスッキリしたんです。この負けは、勝つための負けだ、と勝手に思いました。そのあと13試合負けなしが続きましたが、あの試合についてはいかがでしょうか。

 

高 本音を言うと、納得できないことばかりでした。ただ、引き下がれなかった。ラストプレーの判定で、首位争いをしている、すごく難しい時期ということもあって。言いたいことが10あったとしたら、20くらい抗議はしました。監督室に一回入りましたが、選手が納得していなかったので、また出てきて、「今日は終わりにしよう。明日頑張ろう」と。僕はしょうがないとあきらめたが、選手が納得できてない。「あきらめるんじゃなく、明日頑張るために、今日はこれで終わろう」と伝えました。

 

尾 完全に切り替えられるわけではないですよね。

 

高 もちろん切り替えられてはない。引きずりますよ。

 

尾 次の日の試合前はなにか選手に言葉をかけたのでしょうか?

 

高 いえ、とくには。みんなはどう思ったかわかりませんが、僕自身は「NEW DAY,NEW GAME」だと思っているので。

 

尾 ああいった場で、言葉がすっと出てくるのが本当にすごいです。

 

高 納得させて、次に行かせなくちゃいけないので。足踏みすることもたくさんありますが、背中を押すこと、手を引っ張ることも絶対必要。

 

ーー別のインタビューでは、「無理をしない無理をするのが大事」と言っていました。

 

高 絶対無理するときはある。体調面でも気持ちの面でも。尻たたいて出させることもある。でも、極限を超えた無理は絶対ダメ。もう投げられないのに、投げちゃダメ。うまくなるために、投げ込み、走り込みも必要です。でも、その境界線は大事。無理はしなくちゃいけない。でも無理な無理は「させては」いけない。こちらの問題ですね。「これで終わりね」と言わなきゃダメです。背中を押しても頭を押さえ込んじゃダメ。手を引っ張っても、足を引っ張っちゃダメ。本当にやる気にさせて、おだてることも、コラッて言うことも大事。その代わりグラウンドに立ったら、わいわい元気に楽しくやるよという環境、雰囲気作りが大きな仕事かもしれないですね。

 

おざきせかいかん
37歳 1984年11月9日生まれ 東京都出身 2001年に結成したロックバンド「クリープハイプ」のボーカル&ギターとして2012年にメジャーデビュー。2021年発売の小説『母影』は第164回芥川賞候補作に。「クリープハイプ尾崎世界観の野球100%」(ニッポン放送)がPodcastで配信中。4月16日から全国ツアーを開催。そのほか最新情報は、バンド公式Twitter(@creephyp)にて

 

たかつしんご
53歳 1968年11月25日生まれ 広島県出身 1991年からヤクルトスワローズでプレー。抑え投手として活躍し、史上2人めのNPBとMLB通算300セーブを記録。2年連続リーグ最下位から、2021年20年ぶりにチームを日本一に導いた。2022年1月には、プレーヤー部門で野球殿堂入りを果たした

 

( 週刊FLASH 2022年3月29日・4月5日合併号 )

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