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髙津監督が明かす、開幕までに必要な「チームの起承転結」3勤1休の “休み絶対主義” を貫いた理由
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2023.06.03 11:00 最終更新日:2023.06.03 11:00
ヤクルトスワローズ一軍監督の髙津臣吾氏が、自らのマネージメント手法を克明に語る。
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2021年に日本一になった後、新しいシーズンに向けて考えていたのは、「どうやったら連覇できるだろう?」ということだった。
1990年代、スワローズは1992年、1993年とリーグ連覇を達成したが(1993年は日本一)、1994年は4位に沈んだ。1995年は再び日本一になったが、翌年はまた4位になり、1997年にまた日本一になった。
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しかし、1998年は4位と、1位と4位を繰り返していた。
なぜ、こうしたことが起きたのか? 球界を代表する知性を持つ野村監督がいて、古田さんが全盛期を迎えていた。それなのに、成績のアップダウンが激しい。
この経験は、監督になってからの発想に大きな影響を与えた。振り返ってみると、1990年代は日本一になった翌年に故障者が増え、戦力が削がれていた。そのため、2年続けて結果を出すことが難しかったのだ。他球団も「スワローズの連覇許さじ」と鼻息荒く、エース級をつぎ込んでくるから、2年続けて勝つのは至難の業だった。
優勝を狙って、弱点の補強のためにフリーエージェントの選手と契約する球団もある。スワローズは、他球団ほどFA市場を重視していない。ならば、現状の戦力アップを図るしかない。そこで出てくるのが、故障者を減らし、戦力の落ち込みを減らすという考え方だ。
スワローズには年度ごとに何人が故障で戦列を離れたかというデータが残っている。僕が2014年にコーチになってからのデータはすべて残っていて、時系列で比較ができる。
僕が二軍監督を務めていた時代、一、二軍ともにケガ人が多く、二軍の試合の打順を組むのにも苦労した。先発投手がいなくなり、ブルペン投手6人だけで2試合18イニングを戦わなければならないこともあった。それほど苦しい台所事情だったのだが、最近は故障者が少なくなっていることがデータで示されている。
「数字は嘘をつかないな」と思った。ざっくり示すと、たとえば10年前に外科で診察を受けた総数は約80回だったが、2022年は約50回だった。それくらい、選手のケガが減っていたのだ。この30回の差はそのまま戦力差となり、結果に直結する。
監督就任以来、「ケガ人を出さないことが重要」と唱えてきたが、数字による「見える化」で、コンディショニングが成績に反映されていることが改めて確認できた。
ケガの減少という結果は、トレーナーをはじめとするメディカルスタッフの仕事の質や、選手たちのコンディショニングに対する意識が変わってきたことが大きい。コーチたちが選手たちの状態をしっかり把握し、適切な休養を与えられていることもある。
もちろん、現状のスワローズのマネージメントが100点満点だとは思わない。「ゆとりローテ」ではなく、一線級の投手にどんどん投げさせれば、もっと勝ち星は増えるのかもしれない。しかし、143試合を乗り切り、将来のスワローズのことを考えるならば、余裕を持った練習計画、起用は意味のあることだろう。
■休み絶対主義
僕は「休み絶対主義」を唱えている。休みは適切に取らなくてはならない。
2023年のキャンプは、2月1日に練習が始まり、最初のオフは2月4日だった。この日は選手たちに「絶対に練習しないように」と伝え、強制的に練習施設を閉鎖した。休みとはいっても、「体を動かした方がいいかな」と思う選手が中にはいるからだ。ちょっとだけのつもりが、気づいたら結構練習していた、ということがあるのだ。
僕は、うまく休んだ選手の方が結果を残せると思っている。
村上宗隆のように若く、4番打者としてファンのみなさんに元気な姿を見せるのが重要な仕事という選手は別として、ベテランはコンディショニングを重視して、週に一度は休む、あるいはナイトゲームの後のデーゲームでは先発出場せず、控えに回ってもらう方が体調も整い、チーム全体の戦力維持にはプラスだと思う。
スワローズが戦力を保つためには、シーズンを通してレギュラークラスに活躍してもらう必要がある。そのためにはしっかり練習すると同時に、しっかり休むことが肝要だ。日本のキャンプでは「4勤1休」が主流だが、スワローズは「3勤1休」とした。3日練習したら、1日は休むのである。
おそらく、他球団からスワローズにやってきた選手は、キャンプの練習メニューを物足りなく感じることもあるだろう。それでも、僕は2月の頭から張り切りすぎる必要はないと思っている。開幕までのトータルの練習時間を考えると、3勤1休も4勤1休もそこまで大きな差は出ない。
■チームとしての「起承転結」
開幕までに大切なのはチームとしての「起承転結」だ。
キャンプの第1クールは、全員が集まって緩やかに始動し、チームとして取り組む課題を明確にする。この部分が「起」だ。第2クール、第3クールと実戦形式の練習が増え、選手たちも状態を上げていく。これが「承」だ。
オープン戦が始まると力試しの時期となる。修正点を洗い出し、開幕に向けてプランを練る。先発ローテーションを決めるのもこの時期だ。これが「転」。
この時期に避けたいのが選手のケガだ。コーチは選手のコンディションに細心の注意を払う。ここでケガをしたら選手がいちばん悔しいし、監督としてもブループリントを描き直さなければならなくなる。しかも下方修正だ。
そして3月下旬に、準備万端とまではいかないが、戦力を整えて開幕を迎える。これが「結」だ。
キャンプからオープン戦は、選手の技術、フィジカルの向上期間である。僕は、全員が開幕にさえ間に合えばいいと思っているので、キャンプの最初から飛ばす必要はまったくない。だから、3勤1休の休み絶対主義を貫いた。しかもそれを徹底するため、第1クールが終わった最初の休日は練習施設もクローズして、完全休養にあててもらった。
体もメンタルも徐々に上げていけばいい。キャンプの時点からこうしたメッセージを発信するのは、シーズン中のコンディショニングにも影響すると思っている。
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以上、髙津臣吾氏の新刊『理想の職場マネージメント~一軍監督の仕事』(光文社新書)をもとに再構成しました。セ・リーグ連覇、交流戦優勝、ゆとりローテーション、言葉の力――球界に革新を起こす名将が、自らのマネージメント手法を克明に語ります。
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