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「阪神が好きすぎるんですよ」 監督の思いは選手にも… 元エース・下柳剛氏が語る“岡田彰布 イズム”
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2023.10.19 06:00 最終更新日:2023.10.19 06:00
セ・リーグ優勝を果たし、18日から始まるクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージに挑む阪神タイガース。18年間優勝に見放されたチームを変えたのは、大阪生まれ、生粋の阪神愛にあふれた65歳だ。流行語になった「おーん」「アレ」の裏に隠された、岡田野球の真実に迫る。
「岡田監督は愛されキャラ。俺のYouTubeでも、岡田さんの名前を出したら再生数がグンと上がる(笑)」
こう語るのは、岡田監督第1次政権時代に最多勝(15勝)を獲得し、チームを優勝に導いた立役者の一人、下柳剛氏。
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「シーズンの前半戦で、もう圧倒的に四球が多かった。それだけ打者が塁に出る機会が増えて、相手ピッチャーにプレッシャーがかかっていた。阪神には足が速い選手が多いから、多彩な作戦が考えられる。チーム打率がずば抜けて高かったわけではないけど(2割4分7厘)、得点は両リーグトップ(555点)。投手陣は、キャッチャーの坂本が結構、インコースを攻める配球をするので、どんどん枠(ストライクゾーン)の中で勝負するようになった。能力が高い投手が揃っているので、不要な与四球も少なかった」
岡田監督はオリックスの監督時代の盟友・水口栄二を、一軍打撃コーチに招聘した。
「俺が現役のころ、水口は大っ嫌いなバッターだった。追い込んでも、打てる球以外はカットして四球を奪う。今の大山や近本の姿は生き写しのよう。水口の教育がうまくいったと思うよ」
戦略家である岡田監督が選手に求めるのは、結果よりも過程だったという。自らの現役時代を思い出しこう話す。
「昔話だけど、ノーアウト二塁で、足の速い左打者が打席に入った。岡田監督はバントのサインを出してないのに、その選手がセーフティバントをした。ランナーを三塁に送れるし、自分が生きればヒットになるので、いい策に見えるけど、岡田さんはこれを嫌った。バッターはセーフティが成功したら打率が上がり、ヒットにならなくても犠打になるから、率が下がらない。『勝手なことをするな!』と、俺の前で愚痴ってましたね」
今シーズンの岡田監督は、マスコミを通して、佐藤輝明への厳しい言葉が目立った。
「開幕から佐藤の成績が上がらず、6月に二軍に落としたら、打ちまくって一軍に戻ってきた。そして8月、9月は好調をキープした。佐藤に『毎年、シーズン後半は打率が下がってたけど、今年は何か変えた?』って聞いたら『何も変えていません』と言う。去年と違うのは空気感なんですよ。優勝争いをするという。それで佐藤は一皮むけた。監督の主な仕事はチームの空気作り。不器用でシャイだから『おーん、おーん』としか言わないけど(笑)。
でも優勝したときのビールかけでは『ミエちゃん(ミエセス)、主役ちゃうよ』とか『最初は西(勇輝)と青柳(晃洋・あおやぎ こうよう)でいっぱい勝てると思ったんですけど、なかなか勝てなかったです』と選手をイジる。選手たちも明るく声援に応えてた。そういう空気作りができたことがすごい」
なぜ、岡田イズムは選手間で浸透したのだろうか?
「岡田さんは阪神が好きすぎるんですよ。だから、阪神の選手たちが大好き。阪神ファンは、全員が総監督だというでしょう? 岡田さんはファンの代表で、しかも現役時代に圧倒的な成績を残して、監督としても優勝してる。
だから、岡田さんが阪神の悪口を言っても角が立たない。熱狂的なファンがヤジを飛ばすのと変わらない。毎日、スポーツ新聞を欠かさず読んで、選手がどんなコメントをしていたのか、解説者が何を言っていたのか、自ら確認する。やっていることはファンと一緒だけど、その監督の熱い思いが選手にも伝わる。かける言葉が少なくても、選手が感じているんだと思うよ」
しもやなぎつよし
1968年5月16日生まれ 長崎県出身 1990年のドラフト4位で福岡ダイエーホークスに入団。日本ハムファイターズを経て2003年、阪神タイガースへ移籍。2005年、史上最年長で最多勝を獲得。2013年に引退。現在、野球評論家として活躍中
写真・馬詰雅浩(下柳氏)、共同通信