稲垣氏はノーダメージの「甘々処分」
次に “裏切り” を働いたのは、協会だった。処分が決定した2023年12月25日、バトン協会は『GENESIS』の生徒や保護者を集めて説明会を開いた。その場には、被害者の両親や、稲垣氏も同席した。
「しかし、集まったのは48人中9人だけ。大半の生徒は、“バトン界の帝王” ともいえる稲垣氏の糾弾説明会に顔を出せば、稲垣氏への反逆と捉えられると恐れ、参加しなかったのです。
出席したのは、バトン界の実情をよく知らないキッズクラスの保護者だけでしたが、出席した理事長からの説明を聞いて、保護者らは涙を流し『こんなひどいことをいままで隠していたんですか』と厳しい意見が飛び交いました。稲垣氏はその場にいながら、黙っていただけでした。
しかも、説明会が終わって保護者らが外に出ると、すぐそこで『GENESIS』のメンバーが練習をしていたというのです。そんなことで、本当に説明会と呼べるのか……」
きわめつきは、処分内容の甘さだった。稲垣氏へ下ったのは半年間の会員資格停止だが、実態は何の懲戒にもなっていないという。
「稲垣氏はいまでも普通に指導をしていますよ。何ら変わりありません。今回の処分の実態は、稲垣氏が協会内の事務作業(書類の作成など)ができなくなった、というだけです。単に面倒な作業がなくなっただけで、むしろ稲垣氏は喜んでいるんじゃないですかね……」
実際、本誌が1月18日に『GENESIS』の練習会場を訪れると、指導のため、稲垣氏が会場に入るところだった。直撃すると、「被害を公表しなかったのは、相手方(被害者家族)のこともあるので」「当初、被害者の保護者から大ごとにしてほしくないと要望があった」という旨の説明に終始した。
そして、9月ごろに「加害指導者と被害男性は交際していた」などと周囲に吹聴していたことを質すと、大きく笑い声をあげて「そんなこと言ってないですよ」と、発言自体を否定した。また、説明会を再度、開く用意があるとも語った。
本誌は協会に、稲垣氏への処分が適切だと認識しているかや、加害者名、チーム名、代表者名などを公表しなかった理由などを質問すると、以下の回答があった。
《事実関係は外部調査委員会の報告に基づき既に報道されたとおりであり、関係者の処分は当協会の規程に則り厳正に行いました。本件については、個人の重要なプライバシー問題が関わることから、外部委員会の調査結果の取り扱い及び協会の対応については慎重にこれをおこない、さらには再発防止にむけて規定の改正等、現在着手しております。
一般社団法人日本バトン協会 理事長 内田圭子》
また、被害生徒の父に事実確認を求めると「私からは何も答えられません」とだけ返答があった。
性加害問題に詳しい「あおば法律事務所」の橋本智子弁護士は、今回の事件についてこう語った。
「報道を見た時点で感じたのは、加害者の氏名や具体的な立場などがまったく明かされておらず、加害者が守られすぎているということです。
また、処分の内容は、性加害事件があったチームの責任者として、あまりに軽すぎます。稲垣氏は最初に性加害があったことの報告を受けていたはずで、もっと厳しい処分があってしかるべきです。
また、加害者が処分を受けずに、退会したり海外へ行ったり……チームの責任者と指導者という関係であれば、稲垣氏は処分が下るまで、チームに在籍させることもできたと思います。
協会の当初の対応や最終的な処分を見ても、組織的な隠ぺいを図ったと思われても仕方がないでしょう」
いまでも被害者両親は、被害生徒が安心してバトンを再開できることを望んでいるという。
( SmartFLASH )