スポーツ
今永昇太、MLBトップ「ランバリュー」快進撃の秘密はスピードではなく「垂れないボール」
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2024.05.11 16:30 最終更新日:2024.05.11 16:30
今季7試合に先発して5勝無敗、防御率はMLBトップの1.08と、今永昇太の活躍が止まらない。
今永の直球の回転数が高いことはNPB時代から知られていたが、MLBでの4シーム(直球)の平均回転数は2427で、今季100球以上を投げた投手のうち、4シームを投げた406人中61位。今季のMLBの日本人投手の中ではトップだ。
ただし、4シームの回転数は61位でも、指標によってはMLBトップクラスのものもある。
日本ではあまりなじみはないが、「ランバリュー(Run Value)」という指標がある。投手の球種ごとに、それを投げることで相手打線の得点期待値(特定の状況から、そのイニングが終了するまでに入った得点の平均)にどう影響しているかを表わす数値だ。数値が高いほど相手の得点期待値を下げ、数値が低ければ得点期待値を上げていることを意味する。
【関連記事:ストレートが遅いのになぜ? 今永昇太が山本由伸を成績で大きく上回っている“意外な理由”】
今季の今永の4シームのランバリューは11で、5月11日現在MLBトップ。球種別の指標だけに、集計対象は1332もある中でのトップである。2位はコービン・バーンズ(オリオールズ)のカッターで10。3位の9は、ブラディ・シンガー(ロイヤルズ)のシンカー、カルロス・ロドン(ヤンキース)の4シーム、タイラー・グラスノー(ドジャース)の4シームが並んでいる。
1つ注意が必要なのは、ランバリューという数値は積み重ねの数値であり、量的な指標である点。同じように打者を抑えるのに効果的だとしても、投球数が多いほうがランバリューは大きくなる。ちなみに、2023年シーズンの最終的なランバリュー1位はゲリット・コール(ヤンキース)の4シームで29、2位のローガン・ウェブ(ジャイアンツ)のチェンジアップは28だった。
量ではなく率を表わすものとして、その球種を100球投げたらどれほどのランバリューを生み出すかを意味する「RV/100」という指標もある。これだと今永投手の4シームは3.3となり、順位でいうと124位となる。参考までに上記の他の4名のRV/100は、バーンズのカッターが2.8、シンガーのシンカーが3.1、ロドンの4シームが2.1、グラスノーの4シームが2.3となる。なお、2023年シーズンのコールの4シームは1.7、ウェブのチェンジアップは2.1だ。
もっとも、量的な指標であるランバリューだが、その球種を投げて打たれれば下がっていくので、単純に多投すれば数値が上がるわけではない。
多投し、かつ打者を押さえることで上がっていく数値なので、逆に言えばそれだけ多投していても打たれなければ、それは大変効果的な球種であり投手の武器とも言える。実際、今永の4シームは投球全体の57.9%を占めており、被打率.140、被長打率は.221と威力を発揮している。
さて、ランバリューは投球の結果を反映した数値であるが、なぜ今永投手の4シームは打たれないのか。その効果を裏付ける指標は、冒頭にあげた回転数以外にもある。
その一つが「垂直変化(Vertical Movement)」。4シームの場合、垂直変化が少ないほうが伸びがある。すなわち、物理的には「垂れない(沈まない)」ということになる。球速が遅いほど、そしてリリースポイントがホームベースから遠いほど、滞空時間が長くなりボールは垂れる(沈んでいく)。
今永の4シームは、この垂直変化で5位。変化量は平均よりも3.2インチ(約8.1センチ)少ない。つまり、それだけ垂れない(沈まない)ということになる。
では、回転数が61位にもかかわらず、垂直変化(球の伸び)で5位と上位なのはなぜか。その裏付けの一つとして「回転効率(Active Spin)」がある。4シームの場合、回転効率100は力のロスがまったくないことを表わし、今永は平均回転効率が98.7で、27位タイである。
以上から、今永は回転数のみならず回転効率も優れており、ここにおそらくリリース時の角度が関わり、MLB屈指の「伸びる直球」を投げていることがよくわかる。4シームが球速(平均球速92.0マイルは406人中323位タイ)のわりに打たれない理由は、数値からも明らかになっていると言えそうだ。
今後は相手チームに研究されるだろうし、今永自身の状態が落ち込むこともあるだろうから、打ち込まれる試合もあるかもしれない。しかし、球速はなくとも伸びる直球でどこまで結果を出すのか、今後の活躍に注目したい。
( SmartFLASH )