52年ぶりの勝利の夢が、はかなく散ったパリ五輪から約3カ月――。
淡々と、そしていつものように低音ボイスで語り始めた八村塁(26)だったが、どこか覚悟を持って話し始めたようにも思えた。11月14日、レイカーズの試合後、衝撃の告発がスタートした。
まずは「僕としてはあまり言いたいことではないんですけど……日本代表としてずっとやってきてて、日本代表のやり方というか、そういうところがあまり僕としてはうれしくないところがあって。僕もNBAでやっているなかで、子どもたちのためとか、日本のバスケを強くするためにやっている。けど、日本代表のなかでその目的ではなく、お金の目的があるような気がする」と、日本バスケットボール協会の運営に疑問を投げかけた。
さらに驚かせたのは、「男子のことがわかっている、プロとしてもコーチをやったことがある、代表にふさわしい人になってほしかった」と、公然と日本代表のトム・ホーバス監督(57)に失格の烙印を押したのである。
現在、八村は日本人選手としてただひとり、NBAと本契約を結び、日本バスケットボール界の至宝であることは間違いない。だが、いくら飛び抜けた存在であっても、一選手が協会や監督を批判したならば、よくて厳重注意、最悪なら追放処分を受けてもおかしくはなかった。
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しかし、日本バスケットボール協会の渡邊信治事務総長は、八村の発言に対して「重く受け止めている。(お金の件は)我々のなかでミスコミュニケーションがあり、負担をかけてしまった」と謝罪する始末。
なぜこんな事態を招いたのか。日本バスケットボール協会関係者で、パリ五輪にも帯同したスタッフが、目の当たりにした一部始終を語ってくれた。
「八村選手の代表合流はパリ五輪間近でしたが、八村選手サイドから、日本代表になるにあたっていくつか要望が出されていました。そのなかに、五輪直前までNBAで激戦が続くため、合流直後は疲労回復と怪我の治療にあてたいので、『五輪壮行試合の韓国戦は出ない』というものがありました。
にもかかわらず、主催者である協会が八村選手の欠場を発表したのは試合当日。その対応に、八村選手はがっかりしていました。そのあたりが『お金の目的が……』という発言につながったのではないでしょうか。じつは、ホーバス監督も『せめてベンチには入ってくれないか。期待しているみなさんから声援を送られたいでしょ』と伝えたのです。そこから、八村選手のホーバス監督への不信感が芽生えたようです」
ホーバス監督の国籍は米国だが、日本での生活も長いため、日本流の考え方もあわせ持っていて「一体感」を大事にしているという。たとえチームにNBAプレイヤーがいても「特別扱いしない」という信念があった。
「今回、パリ五輪には3人の専属シェフが帯同しましたが、アメリカでの生活が長い八村選手には少々、物足りなかったようです。たとえば、朝食は卵を少なくとも6個以上、フルーツ多めなど、ボリュームのある食事を要求していました。メニューもほかの選手とは違うことがあり、“八村弁当”と呼ばれていました。シェフの苦労をホーバス監督が知ると、八村選手に『あなた日本人でしょ、みんなと同じ食事じゃダメなのか』と苦言を呈したのです」(同前)
些細なことで亀裂が生じた2人は、コート上でも激しくやり合うことがあったという。
「フォーメーション練習でうまくいかないと、わざと八村選手に強く当たるんです。ホーバス監督は、八村選手に対しても引かない、という姿勢を見せたかったんだと思います。興奮してくると、よくアメリカの監督がやるように、手を出さないよう後ろで組みながら顔を突き出して、『君はスターだろうけど、俺のチームにスターは必要ない。チームのために自分を捨て、犠牲になって貢献しろ!』とまで言っていました。さすがに八村選手も『そのつもりでやっている!』と言い返していました。
また、渡邊雄太やほかの選手に対しても『女の子(女子日本代表)でもできたよ。なぜ、あなたたちはできないんですか!』と激高し、『もうやめて日本に帰りますか』とまくし立てていました。しばらく練習が中断して重苦しい空気になりましたね。五輪前、チームの雰囲気は最悪でした。選手たちが食堂で監督のことを『今日も赤鬼、すごかったなあ』と口にしていましたから」
そうしたなかで迎えたパリ五輪では、八村が怪我で途中離脱するという不運も重なり、3連敗。八村はチームから離れる際、ホーバス監督にひとこともあいさつをしなかったという。
日本バスケットボール協会に、八村とホーバス監督との確執を問い合わせると、「一連で報道されています八村選手の発言につきましては先日、事務総長から当協会(JBA)としての見解を発信させて頂いており、お問合せ頂いた個別質問に対してのご回答はご遠慮させて頂きます」との回答だった。
すでにロス五輪への戦いは始まっているが、協会は、会見でホーバス監督のもとで代表を強化していく考えを示した。
11月23日、ナゲッツ戦後に取材に応じた八村は、日本バスケットボール協会について「プレイヤーファーストの精神が見られない。そういう方針の日本代表ではプレーしたくないし、そういう団体とはやりたくない」と、不信感を露わにした。
八村が日の丸を背負って躍動する姿を見ることは、絶望的かもしれない。
( SmartFLASH )