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おかみさんが語る力士の育て方「3回逃亡して十両になった子も」

スポーツ 投稿日:2018.01.15 11:00FLASH編集部

おかみさんが語る力士の育て方「3回逃亡して十両になった子も」

『阿武松部屋の手島久子さん』

 

 相撲部屋のおかみさんは、どのような存在なのだろうか。
 あんなに大きな人たちと一緒で怖くないですか、という僕の質問に、阿武松部屋のおかみさん、手島久子さんは「みんな現代の普通の若者という感じですね。大きいだけで」と答えてくれた。

 

 同様に高砂部屋の長岡恵さんにも聞く。

 

「みんな気が優しくて力持ち。ニコニコして、いろいろと手伝ってくれるので、最近はだいぶ楽させてもらってます。場所前だけはピリピリしているので、気を遣いますけど」

 

 悩みを抱えることもあれば、調子に乗ってしまうことも。土俵の外だけで見せる素顔を、おかみさんたちはいちばん知っている。

 

「暑い日、玄関前の床に転がっててびっくりしたりね。築地のマグロみたいにゴロゴロしてて……。床が冷たくて気持ちいいそうです」

 

 取材中にインターホンが鳴る。長岡さんより先に、力士の一人がドスドスと音を立てて玄関に向かい、宅配便を受け取って奥に運んでいく。ありがとね、と長岡さん。

 

 おかみさんはまるで、大家族のお母さんのようだ。

 

 実際、力士の誕生日には親方も交えて一緒に食事に出かけたりするという。母の日には力士たちからプレゼントがある。

 

 長岡さんは続けた。

 

「相撲のことは親方が見ます。私は、それ以外のところをフォローしたい。人間的なところかな。スマホに高額の請求が来たらどうしたらいいかとか、簡単に契約書にハンコ押しちゃダメだよとか。勉強があんまり得意じゃない子もいるので、漢字練習ノートを買ってあげたり。色紙を書くときなんかに困りますからね」

 

 なるほど。確かに子供のころから角界でずっと育っていたら、世間を知らない人間になってしまうだろう。相撲と離れた世界から来た女性だからこそ、彼らのサポートができるのかもしれない。

 

 手島さんもその点は一致していた。

 

「私も相撲のことに何か言ったりしません」
「でも、同じスポーツという意味ではアドバイスができたりするのでは?」

 

 じつは手島さんは元女子プロゴルファー。親方との出会いのきっかけも、一緒にラウンドしたことだったという。

 

「相撲って最も競技時間の短いスポーツのひとつだと思うんです。厳しい稽古を何日もしても、ほんとに一瞬で勝負がついてしまう。

 

 一方でゴルフはとても長い競技のひとつ。ミスをしても立て直す猶予があります。だからいまだによくわからないんですよね、相撲は。知らないで言うのもよくないし、私だったら知らない人に言われるのはイヤなので」

 

 しかし一方で、やはり彼女にしか教えられないこともある。

 

「相撲ってとても公平なスポーツなんです。全員レギュラーで、全員試合に出られるんです。ゴルフの場合はそうじゃない。出場権争いに敗れると試合に出られない、経験を積む機会すら得られない。研修生なら昼はキャディをして、草刈りとかのお仕事をして、夜の空いた時間に練習します。だから私はよく言うんです、あなたたち自分が大変だと思ったら大間違いだよって」

 

 力士は部屋に住み込み、もちろん手伝いはするものの、稽古時間と実戦の機会は確保されている。これを当たり前と思ってほしくないそうだ。

 

 一方、長岡さんもまったく同じ切り口から、こんなことを言った。

 

「選ばれて試合に出るのではなく、必ず全員出られるのが相撲なんです。とっても公平なスポーツですよね。入ってきたばかりでひょろひょろの子だって、もうプロなんですよ。プライドを持った」

 

 昔は幼稚園の先生を目指していたという長岡さんは、彼らをこう表現する。

 

「楽をしようと思えばいくらでも楽ができるのに、あえてしんどい思いをして修業をして戦って、自分の力を試す。とっても勇気を持った子たちだと思います。本当にかわいい」

 

 いかにプロとしてのプライドを持たせるか。いかに彼らが集中できる環境を作るか。口で言うのは簡単でも、実際には難しい。

 

「優しくすればいい、というわけでもないんです。うちではトレーナーの先生を呼んで体幹トレーニングをするんですけどね、昔はそのお代は部屋で支払っていたんです」

 

 手島さんが思い出を語ってくれた。

 

「でも、2時に先生が来るのに2時まで寝ていたりして。身が入っていないようだったので、やり方を変えました。やりたい人が自分でお金を払うという形に。そうしたら2時前にちゃんと起きて準備運動して、集中して臨むようになって。個人的にジムへ行って、復習をしたりも。やはり身銭を切るというのが大事なんですよね」

 

 ただ甘やかせばいいわけでなく、線引きが必要なのだ。

 

 ほんわかとした印象の長岡さんも、これには真剣な表情で頷いた。

 

「大切なお子さんを預かっているわけですから、もちろんきちんと面倒は見ますし、サポートもします。でも、部屋はその子一人だけのものじゃない。ちゃんとした子、みんなのもの。部屋の共同生活をきっちりする、朝は決まった時間に起きるとか一緒に仕事をするとかそういったことですけど、それができれば自然と守ってあげられます。でも、部屋を尊重せずに周りに迷惑をかけるのであれば、守り続けることはできない。その子より、ほかの子が大事です」

 

 みんなに平等にできるサポート以上のことはしてはならない、というのが彼女のひとつの基準だという。

 

 スポーツジムとは違い、共同生活の場であり、切磋琢磨の場である相撲部屋だからこその難しさがそこにはあった。

 

「逃げちゃう子とかもいますからね」
「えっ!」

 

 手島さんのなにげないひと言に絶句してしまう。

 

「逃げ出して、朝いなくて。日曜でたまたま列車の本数が少なかったので、なんとかみんなと駅のホームで取り押さえましたけど」

 

 逃げる力士。おかみの指揮で追う力士。いやだおうちに帰るんだ、いや待てよもう少し頑張れよ、と押し合いへし合い。ものすごくシュールな光景に思えてくる。

 

「でも、3回も逃げたのに十両になれた子だっていますから」

 

 わははと笑う手島さん。

 

「お小遣いをあげた途端、田舎に帰っちゃったりとかねえ」

 

 これは長岡さんの経験だ。

 

「自転車で田舎に帰ると言って、補導されちゃった子もいました」

 

 屈強な力士でも、現実から逃げ出したくなることはあるのだ。必死に自転車をこいで山道を登っているところを想像して、なんとなくかわいいという言葉が理解できる気がした。

 

二宮敦人(にのみやあつと)
作家。1985年生まれ。おもな小説作品に『最後の医者は 桜を見上げて君を想う』『郵便配達人 花木瞳子 CASE 親指泥棒』。初のノンフィクション作品『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』がベストセラーに。

 

(週刊FLASH 2017年11月28日号)

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