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石川遼、父経営の名門ゴルフ場に大量「ソーラーパネル」計画…反対署名3000筆でも “我関せず” のごり押し
ズシリと重い約3000筆。受け取ったゴルフ場支配人の表情は、ほぼ変化がなかった。
プロゴルファー・石川遼の父・勝美氏が運営会社の社長を務めるゴルフ場「棚倉田舎(たなぐらでんしゃ)倶楽部」(福島県棚倉町。以下、棚倉C)を、住民運動が直撃している。
勝美氏が、コースの3分の1にあたる9ホールにソーラーパネルを敷き詰め、メガソーラー発電所に転用することを計画。これに棚倉Cのメンバーや近隣住民たちが猛反発し、昨年12月25日、冒頭のように計画に反対する署名を手渡す事態に発展したのだ。
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「一人ひとりに、本当に丁寧に書いていただきました。その重みを感じています。なんとか、太陽光パネルだけはやめていただきたい」
悲痛な面持ちで訴えるのは、プロゴルファーの藤井誠。署名運動の先頭に立ってきた藤井は、かつて棚倉Cで研修生として働きながら、1995年に日本プロゴルフ協会ティーチングプロになった経歴を持つ。
「5年間、キャディや練習場の球拾いをしました。研修生は、仕事の合間に練習場、ゴルフ場の使用が許されていました。棚倉Cの東・中・西とある3コース27ホールのなかで、もっとも戦略性に富んでいたのが西コースでした」
現在、インドアゴルフ施設のゼネラルマネージャーを務める藤井にとって、棚倉Cは原点だ。藤井が続ける。
「ソーラー発電所化されるのが、よりによってその “西” です。棚倉Cは、2013年まで『日米大学対抗ゴルフ選手権』の会場でした。フィル・ミケルソン、アニカ・ソレンスタムらメジャーチャンピオンや、伊澤利光選手、松山英樹選手らが名勝負を演じてきた、歴史と伝統の詰まった “聖地” と呼ぶべきコースなんです」
そんな名門コースが、石川家の手に渡ったのは2018年。遼の母・由紀子氏が社長、遼が取締役に名を連ねる自身のマネジメント会社・ケーアイ企画が、運営会社である棚倉開発の全株式を取得したのだ。
《ゴルフ場のコース設計や経営に携わりたいという遼の希望があり、数年前から探していた》(「福島民報」2018年9月26日付)と、棚倉開発の社長となった勝美氏は語っている。
同年12月に棚倉Cでおこなった「冬休みジュニア親子大会」に参加した遼も、親子大会を《定期的に開催する予定。スケジュールが合えば、参加したい》(「福島民報」2018年12月27日付)と語って、 “ファミリー経営” に意欲を燃やしていた。また経済誌のインタビューでは、ゴルフを通しての “棚倉町への貢献” を誓っていたのだが――。
署名手渡しの日、棚倉Cのクラブハウスには、棚倉町の有力者が顔を揃えていた。同町商工会の村越誠会長は、支配人にこう思いをぶつけた。
「(棚倉Cには)町民コンペなどに協力していただいて、ゴルフ人口を増やしたい。もう一度精査していただいて、そういうこと(ソーラー発電所)ではない方向に持っていっていただければ。ぜひ、社長さん(勝美氏)にもお伝えをしていただければと思います」
周囲に遮るものがなく、日射量の多いゴルフ場のソーラー発電所への転用は東日本大震災以降に急増したが、現在は売電価格が2012年比で3分の1程度まで下落している。
さらに昨年4月、宮城県仙台市の「西仙台ゴルフ場メガソーラー発電所」で、4万平方mが燃える火災が発生。同ゴルフ場は、棚倉Cの計画と同様に27ホール中9ホールをソーラー発電所にしたのだが、感電の恐れから放水ができず、22時間も燃え続けたのだ。地元住民の不安は募る。
同席していた宮川政夫町長も「民間のことに対して直接介入できる立場ではないが、(リゾートスポーツ施設の)『ルネサンス棚倉』と連携した観光振興策などを打ち出し、誘客を促進したい」
と応援を約束し、棚倉Cと施設との相互送客を提案している。町としても、発電所よりもゴルフ場としての存続を望んでいることは明らかだ。
1月22日、帰宅した勝美氏に、本誌記者がソーラー発電所計画について聞いた。
――反対の署名が3000筆集まっていることについては?
「計画どおりに進めます」
――計画どおりに進める?
「はい。計画中なんで」
そう語り、自宅に入った勝美氏。署名に回答をする予定はあるのか、あらためて棚倉開発に質問状を送付したが、期日までに返答はなかった。
署名を受け取った支配人は、2025年中は西コースを存続させることを明言したが、先行きは不透明なままだ。
1989年、巧みなコースマネジメントで西コースを攻略したアリゾナ州立大時代のミケルソン。その残像は、大量のソーラーパネルの下に埋もれてしまうのか。
取材・文・小川朗(日本ゴルフジャーナリスト協会会長)