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斎藤佑樹 結果が出ない時期に出会った『嫌われる勇気』で「一喜一憂するのをやめたんです」【アスリート「座右の書」】
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読書はおもに電子書籍で
「この一冊で、壁を乗り越えられた」――。強い体とメンタルを兼ね備えたアスリートたちに「座右の一冊」を聞いた!
「きっかけは、本のカバーの『青』でした」
元北海道日本ハムファイターズの斎藤佑樹は、プロ入り2年めで大きな壁に突き当たった。開幕投手を務めたものの、夏ごろから肩に違和感を覚えた。翌2013年はほとんど二軍生活だった。
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「そんなとき、栗山英樹監督(当時)から読書をすすめられたんです。歴史上の偉人たちの記録に、ヒントがあるんじゃないかと。それから、いろいろな本を読むようになりました」
ふらっと立ち寄った書店で手に取ったのが、オーストリアの心理学者・アドラーが主唱した理論を要約した『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著、ダイヤモンド社)だった。
2006年夏の甲子園で注目されたハンカチと同じ、青。「好きな色だったから」と視覚から入った一冊に、斎藤は、たちまち引き込まれた。
「自分にコントロールできないものはすべて気にせず、コントロールできることだけに集中して取り組んでいく、というところが刺さりましたね。それまでの僕は、結果が出ないことについて『なぜだろう』と悩んでいました。この本を読んで、悩みの原因を書き出してみたら、自分にコントロールできることは 『10個のうち2、3個だ』 と気づいたんです」
野球は相手がいる競技だが、あえて自分に目を向けた。
「たとえば、審判のジャッジに首をかしげたくなったり、打ち取った打球がエラーになったりしても、そこに一喜一憂するのはやめようと思えるようになったんです。メディアやファンの方への対応も同じ。できるかぎり取材や写真撮影、サインに応じるのはもちろんのことですが、自分のパーソナリティを犠牲にしてまで誰かに好かれなければならないのか。そこに一線を引けたのも、この本を読んで、承認欲求を捨てることができたからなんです」
“自分のできること”を探す日々は、2021年の引退後も続いている。企業のアドバイザーや『news every.』(日本テレビ系)のキャスターを務めている。
「『every.』では、『大逆転家族』というコーナーを持たせていただいています。高校時代に甲子園で優勝でき、大学でも結果を残すことができましたが、プロ野球選手としては活躍できなかった。“大逆転”をはたした家族を取材している僕こそが、いま逆転・復活を目指しているんです。ありがたいことに、過去の経験を生かせる仕事をさせていただいているな、と思います」
写真撮影にも取り組み、2022年以降、写真展を開催している。まさに八面六臂の活躍ぶりだ。
「ファイターズに在籍させていただいた11年間、ずっと結果を出すための試行錯誤を重ねてきました。『何をすべきか』という作戦を、つねに複数、立てているというのかな……。その考え方は、引退後のいまにもつながっていると思います」
【斎藤佑樹がすすめるもう一冊! 栗山英樹著『監督の財産』(日本ビジネスプレス)】
848ページもの、栗山氏の経験値の集大成。「WBCの監督をされている期間、僕はもう選手ではなかったので、監督の視点での話がすごくおもしろかったです。この本にある『結果が出ずに苦しんでいる時間が、成長へとつながる』ということは、僕も選手時代に教えていただいて、いまも心がけていることです」
■メジャーリーガーは読書家多し! ヤクルトの中継ぎエースは村上春樹を愛読
メジャーリーガーには読書家が多い。つねにその動向が話題になる大谷翔平は、日ハム時代、愛読書が『チーズはどこへ消えた?』(扶桑社)だと番組で語り、そのことが知れわたると、版元も反響を追い風に大増刷をかけたほどだ。
菊池雄星は、「年間300冊読む」と各紙の取材に答えている。読書傾向は幅広く、足利事件を冤罪に導いたノンフィクション『殺人犯はそこにいる』(清水潔、新潮社)、フィクションでは須賀しのぶの『革命前夜』(文藝春秋)が愛読書だ。
一方、ダルビッシュ有はメンタル維持に効果的な実用書をよく読むようで、『アーバンサバイバル入門 』(服部文祥、デコ)を複数回読み、《マジで鶏飼いたくなるからこれ》とXに投稿している。
NPBでユニークなのは、村上春樹の『風の歌を聴け』(講談社)がお気に入りという、ヤクルトの中継ぎエース・木澤尚文。高校、大学と慶應で、高校時代には練習や試合、授業の合間を縫って読書に励み、年間100冊を読破していたとスポーツ紙に語っている。野球では「動作の言語化」が肝心と木澤。頭脳投球で、さらなる高みを目指す。
取材/文・鈴木隆祐
※記事中一部敬称略