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獅司、レスリング欧州チャンピオンから角界へ…モチベーションは「ウクライナの両親に活躍を見せたい」

先場所は立ち合いを見直して、ひと場所で再入幕した獅司(写真・松下穂香)
ロシアによるウクライナ侵攻から3年の月日が経過した。事態はいまだ混迷のなかにあるが、戦地から遠く離れた日本では、2人のウクライナ出身力士が注目を集めている。獅司(28)と安青錦(20)だ。今回は獅司に話を聞いた。
獅司は2023年七月場所で十両に昇進、ウクライナ出身初の関取となった。新入幕の2024年十一月場所は負け越したものの、先場所は十両優勝し、1場所で幕内復帰を果たした。
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「体はすごく大きかったです。10歳で(体重が)120キロです。だから、もうレスリングの大会には出られない。それで相撲の大会に出たら、ヨーロッパのチャンピオンになりました。15歳、16歳かな」
その後の世界大会で3位になり、スカウトされて来日。それが2018年のことだった。
「日本に来て困ったのは日本語。難しいです、日本語」
初めのころはかなり苦労したというが、相撲部屋で生活するうちにまわりが何を話しているかが、徐々にわかるようになってきた。今でも話すのはやや苦手なようだが、ヒアリングのほうはかなり上達している。
「食べ物は、白いご飯だけちょっと難しいです。白くないご飯はすごくおいしい。『おい獅司』です(笑)。魚も全然大丈夫。お寿司も最高です」
生まれ育ったのは、ウクライナ南東部ザポリジャ州のメリトポリ。現在、ロシアの占領下にある街だ。
「お父さんもお母さんもウクライナにいます。いつも電話で話します。『元気? 何してる? 明日は?』。ウクライナでも相撲の動画は全部観られます。でも今、仕事ないです。何もないです。大変です。だからママに電話して『これが欲しい? あれが欲しい?』って聞いて、全部OKだよって」
遠く離れた故郷の両親に、自分が活躍する姿を見せたいというのが、最大のモチベーションとなっているようだ。
2020年三月場所で初土俵を踏んでから5年。一度跳ね返された幕内に再挑戦する。
「(幕内に戻って)『うれ獅司』ですね。(新入幕の)九州場所では全然何もできなかった。今度はもっといろいろ直して頑張ります」
193センチ、166キロの巨体は、同じ東欧出身の元大関・把瑠都(エストニア出身)を彷彿とさせるが、本人は「(憧れの力士は)いないですね。まねとかはしたくないです。自分の相撲を取りたい」とのこと。
師匠は元小結・垣添の雷親方。夫人で部屋のおかみさんの栄美さんは、女子相撲の元世界王者。稽古は厳しいが、若い力士が多く、部屋は明るく活気に満ちている。
祖国の現状など心配は多いはずだが、根が明るい性格の獅司。取材中もカメラマンのカメラを構えてみたり、「おい獅司」「かな獅司」などを連発したりと、茶目っけもたっぷり。取材を終えて部屋を後にする我々を部屋の外に出て見送り、見えなくなるまでずっと手を振ってくれた。これからも多くの「うれ獅司」が聞けそうだ。
新横綱・豊昇龍、そして2人のウクライナ出身力士。見どころ満載の三月場所は、9日に初日を迎える。
獅司大(ししまさる)
西前頭十三枚目 本名はソコロフスキー・セルギイ 1997年1月16日生まれ ウクライナ・ザポリジャ州出身 雷部屋 193センチ、166キロ
コーディネート・金本光弘