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「匿名の告発で何がいけないのか」広陵高校“暴行騒動”で問われるSNS告発に識者が断!「通報を受けた側が取るべき措置は同じ」

8月7日におこなわれた広陵高校1回戦での、中井哲之監督の様子(写真・馬詰雅浩)
「陰から言うのは、卑怯」「うちは匿名で手紙が来たりするけど、名を名乗れと」「まずスタートで名を名乗れって。で、本当に批判するなら出てこいと。それが武士道でしょう」
全国高校野球選手権大会で、8月14日、2回戦で敗退した島根県の開星高校の野々村直道監督の言葉だ。今回の甲子園をめぐっては、広島県代表の広陵高校が、部内の集団暴力事案などについてSNSで被害者親族らから告発を受けたことで、大会中の出場辞退を発表。野々村監督の言葉は、この広陵高校の事件について向けられたものだった。取材した甲子園大会特集の編集記者がこう明かす。
「発言は、記者から特に質問があったわけではなく、野々村さんが自発的に語り始めたようですね。ただ、発言の大部分は、野々村さんの開星高校野球部にける指導の内容でした。『いじめは絶対にいけない』とも語っています。
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ただ、SNSについて記者から見解を聞かれ、『結局、陰からものを言うのは卑怯だよ』と言い始め、告発が匿名で行われことを批判する内容になりました。最後は、ほとんどまくし立てるように、『まず、スタートで名を名乗れ。批判するなら出てこいと。それが武士道でしょ。武士道っていうのは武士じゃなくて、日本の文化なんですよ』などと強い調子で締めくくりました。かなり高揚した様子でしたよ」
一方広陵高校では、大会中に新たな暴力事案がSNSに新たに投稿されたことで、SNSでの批判に拍車がかかり、生徒も含めた学校の安全が大きく脅かされた。
野々村監督の発言はこれを憂慮し、沸騰するSNSでの広陵高校への批判にくぎを刺したものと思われるが、新たな告発も含めて、告発の正当性そのものを否定するかのような発言に、「的外れなコメント」「名乗り出るべきは加害者だ」などの批判的な意見が多く投稿された。
「そもそも匿名の告発だったとしても、何がいけないんでしょうか?」とは、ブラック企業の名付け親でもある人事コンサルタントの新田龍氏だ。
「内部告発とは、『告発の中身』が焦点であり、対処するべき問題です。『誰が言ったか』はまったく問題ではありません。『匿名の告発は卑怯』とする主張がまかり通れば、その先にあるのは告発の萎縮・沈黙化、ひいては組織の不正の野放し、さらに通報者の特定と報復といった公益に反することだけです」
さらに、企業の内部通報制度に詳しい弁護士の大和田周資氏は「それが仮に匿名であっても通報を受けた側が取るべき措置は同じ」とも言う。
「匿名では当事者の証言などが取れず、調査に限界があるのは確かです。ただ、だからといって匿名通報をなおざりにはできないし、通報を受けた側は最大限の事実解明の努力をするべきです。また、仮に調査の過程で通報者の匿名性を解除してもらう必要が生じたなら、配慮を怠らず、告発者の匿名性を維持することが絶対に必要です。公益通報者保護法では通報者がいかなる不利な扱いを受けないことをとしています。もちろん、学校にもこの法律は適用されます」
野々村監督と言えば、2010年の選抜高校野球大会に出場し、21世紀枠選出の向陽高校(和歌山県)に1回戦で敗退した試合後の取材に、「末代までの恥。腹を切りたい」などと発言したことが問題となり、監督辞任に追い込まれた経緯がある。
その後、野球部OBなどを中心とした署名活動もあり、2011年に監督に復帰。2012年に学校を定年退職した後、2020年に監督専業で再復帰を果たした。指導には定評があり保護者の信頼は厚いというが、体罰を一貫して肯定してきたなど、独自の教育哲学を公言している。先の編集者が明かす。
「当時、学校の代表電話への苦情や批判、登校途中などでの生徒への嫌がらせ行為が相次ぎ、今の広陵と同じような状況になりました。じつは、野々村さんが辞任した後も、しばらく、その状態が続いたということです。会見でも、『ウチにも匿名の苦情、手紙が来た』と明かしています。野々村さんにも、思うところがあったのかもしれません」
広陵高校は新たな暴力事案についても、第三者委員会での調査することを明らかにしている。すでに野々村監督には多くの批判が集まっており、調査結果によってはこれがさらに強まる可能性もある。
野々村監督を信頼して指導を受けている部員や父兄保護者に期待を裏切る結果にならなければいいのだが。