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トルシエ元監督が明言「3バックは日本に200%あっている」…森保ジャパン「2026年W杯」ベスト4への鍵は?

スポーツ 記事投稿日:2025.11.22 06:00 最終更新日:2025.11.22 06:00

トルシエ元監督が明言「3バックは日本に200%あっている」…森保ジャパン「2026年W杯」ベスト4への鍵は?

ホワイトボードを使いながら熱く戦術論を語るトルシエ氏(写真・福田ヨシツグ)

 

 2002年、日韓W杯サッカー日本代表を初の決勝トーナメントへと導いたフランス人の元監督、フィリップ・トルシエ氏(70)。今も日本サッカーに高い関心を寄せ、昨年のアジアカップでは、ベトナム代表を率いて森保ジャパンと対戦した経験を持つ。

 

 かつて「フラット3」という守備の哲学を日本に植えつけた男は、約7カ月後に北中米W杯を控える森保ジャパンをどう見ているのかーー。

 

 長年トルシエ氏を追い続けてきたサッカージャーナリスト・田村修一氏(67)が、森保ジャパンの現在地とその可能性についてトルシエ氏に迫った。

 

田村 森保ジャパンは、W杯アジア最終予選でアジアのライバルを圧倒した。一方で、予選終了後は9月の米国遠征で、ともに来年のW杯の開催国であるメキシコ(△0-0)、アメリカ(●0-2)と対戦し、1分1敗。その後は国内でパラグアイと2-2で引き分け、ブラジルには3-2、ガーナに2-0、ボリビアに3-0と勝利。

 

 とりわけ過去一度も勝てなかったブラジルからの金星は大きな話題となった。森保ジャパンの現状をどう見ている?

 

トルシエ 予選のパフォーマンスは非常によかった。ただW杯を考えれば、今後アジア以外の国々とどんな戦いができるかがポイントになる。来年のW杯はアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国の共催で、かつてない規模。出場チームが32から48に増え、気候の違いや長距離移動、時差があるなかで、仮に準々決勝まで進めば4週間で6試合(決勝まで行けば最大8試合)を戦うことになる。

 

“ロジスティクス” の重要性はこれまで以上に増すし、幅広い選手層を作っておくことが必要だ。

 

 森保一(もりやすはじめ)監督は、ここまでうまくチームをコントロールしているように見える。今は、故障やコンディション不良で三笘薫(みとまかおる・28、ブライトン)や守田英正(30、スポルティング)、町田浩樹(28、ホッフェンハイム)らを起用できていないが、出場機会の少ない選手にプレー時間を与えるチャンスでもある。悲観することはない。

 

■依然としてフィジカル勝負に弱点がある

 

田村 怪我人が出ているが、新しく起用されている選手もいる。気になる選手がいたら名前を挙げてほしい。

 

トルシエ ブラジル戦でゴールを決めた中村敬斗(25、スタッド・ランス)は、レギュラーを狙える力がある。中村は三笘が不在だった10月の2連戦でいずれも先発し、ブラジル戦ではゴールも決めた。所属のスタッド・ランスは今季フランス2部リーグに降格してしまったが、ブラジル相手でもコンプレックスを感じさせなかった。

 

 ボランチでは佐野海舟(かいしゅう・24、マインツ)もいい。プレーエリアが広く、機を見て前線に飛び出す勇気があり、遠藤航(わたる・32、リバプール)や守田の不在を忘れさせてくれたほどだ。

 

 それからアメリカ遠征に続き、10月シリーズの2試合に出場したDF渡辺剛(28、フェイエノールト)にもふれたい。パラグアイ戦では失点に繋がったミスもあったが、彼にとってはいい経験になったはずだ。

 

田村 U-20日本代表として、9月下旬から10月にかけてチリで開催されたU-20W杯に出場していた佐藤龍之介(19、ファジアーノ岡山)も評価したい。佐藤は11月シリーズのメンバーに入った。

 

トルシエ 佐藤には攻撃的なポジションならどこでもこなせるユーティリティ性がある。小柄だが、ボールを持てば久保建英(たけふさ・24、レアル・ソシエダ)のようなドリブル、シュートがある一方で、ボールを持っていないときでもスペースへ飛び出し、ボールを受けることができる。

 

 かつて私が日本代表を率いていたころの本山雅志に似ているが、佐藤はもっとストイックで、そのプレーから自分への厳しさが見える。

 

田村 戦術的な部分での日本の強みやウイークポイントについてはどう見ている?

 

トルシエ 日本代表はボールを保持することがうまいし、11人が規律正しく辛抱強くプレーすることができる。現在の日本代表の選手は、ほとんど欧州の強豪リーグでプレーしており、技術的にも優れている。

 

 ただ、いくらボール保持率を高めても、相手ゴールから遠い位置で無駄にパスをまわしすぎれば、相手に守備陣形を整える時間を与えてしまう。それは、2試合無得点に終わった9月のアメリカ遠征でも顕著だった。

 

 高い位置からの守備のプレッシングは悪くない。そこでボールを奪ったとき、もっと素早く攻撃に繋げればチャンスは広がるはずだ。

 

 守備面では20年前と比べればだいぶ改善されたが、依然としてフィジカル勝負に弱点があることは否めない。特にセットプレーを含めた1対1の競り合い。だからこそ、日本は守備ラインを高く設定し、自陣深い位置での守備機会を減らす必要がある。

 

■ベスト16越えの鍵はターンオーバー

 

田村 森保監督はアジア最終予選を3バック(3-4-2-1)で戦ってきた。ウイングバックにはおもに攻撃的選手を起用し、W杯を見据えると少し攻撃的すぎるのでは、という意見もある。今後は4バックも視野に入れるべきか。

 

トルシエ 今の日本代表は3バックを基本に、守備時には両ウイングバックが下がり5-3-2、あるいは5-4-1に変わるような形だ。もし4バックで4-3-3のような布陣にすれば、より高い位置からのプレッシングが有効になるかもしれない。

 

 ただ4バックにしたときに、両サイドバックで誰を起用するか、森保監督も頭を悩ますのでは。私も3バックの布陣を好んだが、おそらく森保監督のアイデンティティも3バックにあり、簡単には変えない気がする。

 

 3バックにすることで前線のプレッシング人数は減り、攻撃陣の運動量の負担は増えるが、守備でのコントロールは保ちやすい。3人のセンターバック(CB)がいれば、相手のカウンターに対してCB3人がラインを揃えることで対処は可能になる、いわゆる “フラット3” だ。

 

 日本サッカーには個人で守る文化は浸透しておらず、3バックに2人のボランチを置くほうが攻守のバランスが保てるのは間違いないだろう。

 

田村 確かに4バックにしたときのサイドバックの人選は気になる。

 

トルシエ それに4バックにすれば、前線の人数を削る必要があり、たとえば久保や南野拓実(30、モナコ)らのポジションを見つけるのが難しくなるかもしれない。中盤やサイドに人材が多く、守備でのフィジカルに問題がある以上、3人のCBを置くことは理に適っている。

 

 私に言わせれば、4バックよりも3バックのほうが200%日本に合っている。攻撃的すぎるというのであれば、たとえば右サイドに望月ヘンリー海輝(ひろき・24、町田ゼルビア)らを置き、バランスを取ることも可能だろう。

 

田村 日本は、いまや世界のトップ20と呼ばれるまでに成長した(最新のFIFAランキングは19位)。ただ、W杯のたびにヨーロッパや南米の強豪との間にまだ “溝” があることを痛感させられてきたのも事実である。

 

トルシエ 日本は世界のトップ20になったが、まだW杯で常にベスト4を狙えるレベルには届いていない。決勝や準決勝に進出するのは、FIFAランキングでトップ5を争うような国々だ。その差が完全に埋まることは、今後もないかもしれない。

 

 それでも、日本がW杯でベスト4に進出することは可能だと思っている。2002年日韓W杯でともに4強入りした韓国やトルコのようにね。

 

 W杯では組み合わせや開催地などの条件が味方し、サプライズが起こることもある。経験ある選手が揃い、明確なアイデンティティのある日本が、来年のW杯でベスト8やベスト4に到達することも夢ではない。前回カタールW杯では、モロッコがベスト4に進出したが、日本にもその資格はあるだろう。

 

田村 本気で言っている?

 

トルシエ 日本はもう、W杯に “参加するためだけに行く” チームじゃない。ブラジルに一度勝ったから満足して終わりではないはずだ。前回のW杯では、ドイツとスペインも破った。この事実は、選手たちの心理面でも非常に大きいはず。もっと自信を持つべきだ。

 

田村 だが、日本はまだW杯でベスト16の壁を越えたことはない。ベスト8、さらにその先に進むための鍵は?

 

トルシエ 鍵はターンオーバーだ。十分な戦力は整っているだけに、あとはどうマネジメントするか。北中米W杯を戦ううえで、長距離移動や宿泊、練習環境、食事面のサポートなどーー “ロジスティクス” が重要になると言ったが、それは日本の得意分野のはず。

 

 あとはメンバーをどう使い、チーム全体をフレッシュに保てるか。肉体的なコンディションだけでなく、新鮮なメンタルを維持することが大切だ。ミスや敗戦を引きずらず、運を味方につけること。日本人は「内容がよくないと勝てない」と思い込みがちだが、サッカーでは内容が悪くても勝てる試合がある。そこに、まだ心理的な課題が残っている。

 

田村 サッカーでは、常にいい内容のチームが勝つとは限らない。

 

トルシエ 日本はボール保持が得意だが、もし相手が引いて守りを固め、カウンターを狙ってきたら苦しむ。そうした相手に勝つことは、場合によってはブラジルを倒す以上に難しいかもしれない。

 

■長友は “メンター” にぴったりの橋渡し役

 

田村 メンバー編成についてはどう考えるか。

 

トルシエ 最終メンバーを決めるのは時期尚早だ。怪我で長く戦列を離れている冨安健洋(とみやすたけひろ・27、無所属)のほか、DFに故障者が多いのは気になるが、伊藤洋輝(26、バイエルン)の復帰は近いと聞いた。鈴木淳之介(22、コペンハーゲン)も10月シリーズではいいプレーをしていたし、板倉滉(こう・28、アヤックス)もいる。

 

 メディアはすぐに個々の選手の評価をするが、指揮官はもっと広い視野で、グループとしての成熟度を測っているものだ。

 

 ひとつ言えるのは、日本には “この選手がいなければ成り立たない” という意味での絶対的なリーダーがいないということだ。むしろ、森保監督は特定の選手に頼らないグループを作り上げたといえる。

 

 ただ、チームにエネルギーを吹き込む存在が必要になるときもある。長友佑都(ゆうと・39、FC東京)は、 “メンター” にぴったりだ。彼は監督とチームの橋渡し役になれる存在だ。

 

 私も日韓W杯では、中山雅史や秋田豊らのベテランを加え、似たような役割を託したことがある。長友はもっと進化した価値観のもとで、メンバー入りを期待されているかもしれない。

 

田村 長友が招集され続けていることにはさまざまな意見があるが、絶対に呼ぶべき?

 

トルシエ そうだ。彼ほどのキャリアを持った選手はほかにいない。その経験をチームに伝える役割を、森保監督も期待しているはずだ。

 

田村 最後に、2002年日韓W杯の話を聞きたい。フィリップが率いた日本代表は、初の決勝トーナメント進出を果たしたが、ベスト16でトルコ戦に0-1と敗れた。どんな思いが残っている?

 

トルシエ 当時の日本代表にとって、グループリーグを突破してベスト16に進出することこそがゴールだった。その目標を達成した後のトルコ戦は、次のサイクルに進む最初の一歩だと私は捉えていた。

 

 ただ、私自身にも大きな満足感があったし、選手やスタッフの心もどこか満たされていたのだと思う。それに、会場の宮城スタジアムは雨で、スタンドは代表カラーの青ではなく、雨合羽の白一色に染まっていた。まるで「本当に日本代表の試合なのか」と思う光景だった。あらゆる面で、勝つための条件が整っていなかったのかもしれない。

 

田村 フィリップもトルコ戦では、それまでの紺からグレーのスーツに代えた。柳沢敦と鈴木隆行に代えて、西澤明訓(あきのり)と三都主(さんとす)アレサンドロを先発に起用したのも驚きだった。

 

トルシエ あのグレーのスーツは、試合後すぐに燃やしたよ(笑)。ただ、西澤と三都主を起用したことに後悔はない。トルコ戦でのパフォーマンスの悪さを、特定の選手の出来に結びつけるべきではない。2人のモチベーションの高さは理解していたし、相手を惑わせる狙いもあった。試合が終わってから何かを言うのは簡単だが、私はチーム編成について後悔していない。

 


 日本代表がW杯で初めて勝ち点1を手にしたのはベルギー戦、初の勝ち点3を挙げたのがロシア戦、そして史上初の決勝トーナメント進出を果たしたのも、私のチームだった(いずれも2002年日韓W杯)。

 

 私はその結果に誇りを持っているし、当時の “パフォーマンスの基準” は今も誰にも超えられていないと思っている。だが、森保ジャパンにはそれができる力があると信じているよ。

 

たむらしゅういち
1958年7月27日生まれ 千葉県千葉市出身 Jリーグ創設以前からフリーランスジャーナリストとしてサッカーの取材を始め、W杯は1994年アメリカ大会からすべてカバー。アジアはもちろんヨーロッパ、アフリカでも積極的に活動し、フランス・フットボール誌、レキップマガジン誌などにも寄稿。2007年からはバロンドール・日本投票委員を務める

 

フィリップ・トルシエ
1955年3月21日生まれ フランス・パリ出身 1998年フランスW杯で南アフリカ代表を率い、同年9月に日本代表監督に就任。1999年ワールドユース(現U-20W杯)準優勝、2000年シドニー五輪ベスト8、2002年日韓W杯では日本を史上初の決勝トーナメント進出へ導く。その後も各国で指導を続け、昨年にはベトナム代表監督として森保ジャパンと対戦。2020年、日本サッカー殿堂入り

 

写真・福田ヨシツグ、桑原 靖、馬詰雅浩
通訳・臼井久代
取材&文・栗原正夫

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出典元: 週刊FLASH 2025年12月2日・9日合併号

著者: 『FLASH』編集部

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