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PL学園の名監督が球児に贈ってきた言葉は「球道即人道」
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2018.08.15 06:00 最終更新日:2018.08.15 06:00
18年間の監督時代に異数の業績を刻む。黄金時代を築いた名将、PL学園・中村順司元監督(71)が心の拠りどころにした言葉が「球道即人道」。グラウンドの中に、人間社会の縮図があるというPL教団の御木徳近第二代教祖の教えだ。
「すべてのプレーは自分のためでなく、チームのためにというPL野球の原点がこめられた言葉。それを自ら実践し、チーム全員に伝えることが使命だと思って指導した」
のちに、「球道即人道」の教えは、さまざまな言葉に置き換えられる。1987年、選抜優勝メンバー・片岡篤史は大会で精彩を欠く。不振に喘ぐ片岡にかけた言葉が、「できないことがあれば、できるよう祈りなさい。ただし、祈るだけでなく、すべてのことに感謝して徳を積みなさい」。
野球技量の向上を目指すには、生活態度の改善も必要不可欠だと諭す。以後、野球部寮周辺の掃き掃除を毎朝、夏の甲子園大会決勝の当日まで続けて精神修養に励み、春夏連覇の大願を成就。
立浪和義は、1年秋にレギュラーを獲得し、次第に慢心が芽生えた。
「エラーした仲間を咎める態度を取ってはいけない」
諫められた翌日から謙虚な気持ちに切り替えて、後に主将にも選ばれるほどナインから信頼を取り戻した。
PL史上最強打者の清原和博に対するアドバイスはただひとつ。次の打者へ繫げることだけを指導。常套句は「センターへ打ち返せ」。
その甲斐あって、本塁打を狙う大味な打撃を慎み、チームバッティングに徹するようになった。
チームがピンチに直面したとき、伝令へ託した言葉が「1点やっても2点はやるな」。緊迫した場面でプレッシャーをかける言葉を避けて選手を落ち着かせるのが狙いだった。意外なエピソードを語る。
「18年間、サインを一度も変えたことはなく、同じサインを出しつづけた。その代わり、ジェスチャーを多く使った。打者には『もっと顔を上げろ』、投手には『腕を思いきり振れ』とか。それが選手をリラックスさせたように思う」
ふだんの練習でやってきたことを甲子園の大舞台で、いかに実践できるかが勝敗を左右する。そのためには少しでも選手をリラックスさせることで、本来の力を引き出す。高校野球の厳しさを知り尽くす中村氏の言葉は、人生の処世訓に相通じるものがある。
なかむらじゅんじ
甲子園通算成績58勝10敗。勝率.853。優勝回数6回(春夏各3回)。監督在任中に毎年プロ選手を1人以上出し、その数は、総勢39名にのぼる。現在、名古屋商科大学野球部の総監督を務める
(週刊FLASH 2018年8月14日号)