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白血病の権威が語る「池江璃花子」最新治療現場

スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2019.02.28 06:00 最終更新日:2019.02.28 06:00

白血病の権威が語る「池江璃花子」最新治療現場

 

 急性白血病に関しては、15歳以下の小児白血病がひとつの山だが、50歳を超えると急激に発症が増える。とくに男性の罹患率が高い。

 

 医療機関で急性白血病の診断が下されると、まずは最大公約数的な治療を開始する。白血病細胞が猛烈なスピードで増えている場合、一刻も早く抗ガン剤を投与する必要があるからだ。

 

 これと並行して個々の患者の白血病細胞の特徴を遺伝子レベルまで10日ほどかけて徹底して調べ上げる。

 

「この解析の作業は、非常に重要です。ここで得られた情報をもとに、将来の予測をして、治療方針を決めていく。化学療法(抗ガン剤治療)でいくのか、造血幹細胞移植が必要なのかという判断も、解析した情報から下すことになります」

 

 急性白血病の治療の基本は、化学療法。1週間から10日ほどかけて、複数の抗ガン剤を使う。薬の効果で白血病細胞は激減。発症した時点で、正常な細胞も減少しているから、骨髄の中はすっからかんになる。

 

「更地になった骨髄で、正常な造血が始まってくることがある。この状態を『寛解』と呼びます。急性白血病のうち、約8割は最初の治療で第一寛解期にまで持っていけます。

 

 寛解は一見正常な状態ですが、まだ5%くらいは白血病細胞は残っている。これを0%にしないと、治りません」

 

 この後の治療法は再び化学療法でいくか、造血幹細胞移植をするかの選択となる。造血幹細胞移植には骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植などの種類がある。

 

「十分な化学療法をおこなって治る場合もありますし、残念ながら、再発ということもある。再発の場合は、化学療法では治せないと考えます。

 

 1990年代の初めまで、兄弟のHLA(白血球の型)を調べて、合わなければ骨髄移植はできませんでした。1991年に骨髄バンクが設立され、1993年にはバンクを通じて移植が始まった。急性白血病の治療環境は一変しました」

 

 骨髄移植では患者とHLAが一致したドナーの骨髄の中にある造血幹細胞を移植する。全身麻酔をかけ、骨盤から500cc~1リットルの骨髄液を取る。これを輸血と同様の形で患者の体内に入れる。

 

 末梢血幹細胞移植の場合、ドナーにG-CSF製剤という白血球を増やす薬を打つ。3日ほど薬を打ち続けていると、白血球がぐんと増えてくる。

 

 このとき、本来は骨髄の中にしかない造血幹細胞が末梢血(通常の血液)の中に増えてくる。これを採血し、成分献血と同じ要領で造血幹細胞だけを患者に移植する。

 

 そして、急性白血病の治療をさらに変えたのが臍帯血移植だ。臍帯血移植の臍帯血とは、へその緒に含まれる胎児の血液。この中にたくさんある造血幹細胞を患者に移植する。

 

「日本人の成人で体重が65kg前後の人であれば、95%以上の確率で移植可能な臍帯血が見つかります。説明や同意の過程も必要ありません。これは画期的でした」

 

 池江選手が白血病を告白して以来、骨髄バンクへの登録者が急増した。だが、池江選手自身の治療が、造血幹細胞移植にまで及ぶと、五輪出場権獲得への道のりは厳しいものになるかもしれない。

 

「化学療法だけなら、後遺症を残さず治せます。彼女はまだ若い。抗ガン剤を入れる前に、卵子保存などをして、子供を産める希望を残してあげたいよね。そして、五輪に間に合ってほしい。時間的には可能です。奇跡は起こるものです」

 

 東京五輪へのラストチャンスは2020年4月の日本選手権。2位以内で、出場が叶う。奇跡は希望を捨てない人にだけ訪れる。

 


たにぐちしゅういち
1960年鹿児島県生まれ。1984年九州大学医学部卒業。浜の町病院血液腫瘍センター部長などを経て、2003年から虎の門病院血液内科部長。現在は副院長、遺伝子治療センター長も兼任。けっして諦めず考え抜く姿勢で独自の治療法を見出し、血液のガンと戦っている

 

取材&文・片田直久

 

(週刊FLASH 2019年3月12日号)

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