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相撲は巨体が有利とは限らない…土俵で炸裂する小兵の知恵
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2019.03.22 06:00 最終更新日:2019.03.22 06:00
ベストセラー作家・二宮敦人の「相撲ルポ」不定期連載。最終回となる今回のテーマは、体格別の戦い方について。小さい力士が巨漢を翻弄する身軽な動きに、観客はいつも拍手喝采を送る。体格差が考慮されない世界で戦う、力士たちに迫る。
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まずは、体重別のルールがない理不尽に対して、小兵力士はどう思うのか、聞いてみることにした。
同部屋の兄弟子である、横綱・白鵬から四股名を授かったという炎鵬関は、身長168センチ、体重100キロ。土俵入りで、力士がずらりと並ぶ様を見ていると、「怪物の集団に紛れ込んだ少年」という印象である。どうしてあんなに大きな敵に、彼は怯まずぶつかっていけるのか。
「いえ。僕は相手を『怖い』と思ったことはないです。そういう感覚は、入門した頃、白鵬関と取った時だけですね」
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稽古上がりの炎鵬関は、浴衣に身を包んで、にこやかに答えてくれる。爽やかな好青年で、ただいま人気急上昇中。バレンタインデーにはチョコがいくつも、宅配便で届けられていた。
−−しかし小さくて軽いというのは、不利ではないんでしょうか?
「僕はあまり感じないですね。逆にこれが強みです。この大きさだからこそ相手もやりづらいところがあると思いますので。小さい体というのが、いちばんのストロングポイントだと思っています」
僕とさほど背が変わらない彼が、真っ直ぐな瞳でそう言い切る。
兄の影響で、5歳から相撲教室に通い、アマチュア相撲の軽量級で活躍していた炎鵬関。大学生の時にスカウトされるまでは、一般企業や教員の道も考えていたという。
「やはりこの体なんで、リスクはあると思っていまして。相撲は趣味に留めた方がいいかなと。でも声をかけてもらったとき、これだ、という気がしたんですね。そこからは就活を全部やめました」
炎鵬関のお母様にも、当時の話を聞いてみた。
「体も小さなほうですしね。両親もお兄ちゃんも大きいのに、あの子だけ小さくて。どこかでみんなに追いつけなくなるんじゃないか、壁にぶつかるんじゃないかと思いながらも、『頑張れ頑張れ』と見てきました。そうしたらその壁を一つずつ越えてきて。
それでもね、大相撲に行くとまでは思ってませんでしたね。就活がだいぶギリギリになった頃かな、ある日家族が集められて、後悔したくないから大相撲に挑戦すると言われました。決意が固まったようでした。親として不安はもちろんありますけれど、信じて応援するしかないなと」
迷いが吹っ切れたのだろう。大相撲の世界に飛び込んで2年、炎鵬関は順調に結果を残し続けている。
「今は相撲のことばかり考えてますね。強くなるためにはどうしたらいいか。稽古して、休んで、トレーニングして。とにかく今ここで頑張らないと。今がいちばんやらなきゃいけない時だと、自分でわかってますので」
体重差を理不尽に感じている様子は、一切なかった。
一方、魁聖関は身長195センチ、体重204キロ。実際に目の当たりにしてみると、ほとんど巨人と言っていい。座っていてもなお、山のような存在感だ。穿いているパンツには、僕が4人は入るだろう。
「もともと柔道をやっていたんですが、お父さんの友達に相撲をやってみないかと誘われたんです。16の頃でした」
ブラジル出身の魁聖関は、日本ではもちろん、ブラジルでも体が大きい方だったそうだ。
「柔道より相撲の方が、体に合っていたのかな。アマチュアだと、まあ、力だけで勝てるんですね。柔道でもどちらかというと力だけで落としてたんで、ね」
おっとり、ゆったり、優しげな口調で話す。
「でも日本に来た時、誰にも勝てなかったんです。その、部屋の人と稽古した時にですね」
−−え、そうなんですか? 自分より小さい人にも?
「はい、そうですね」
まぐれで勝つことすらなかったという。
「でもしょうがないですね。ブラジルでは週に1、2回くらいしか稽古してなかったので。こっちだとほぼ毎日稽古ですからね。全然力とか、違いますね。
だから、いちから鍛え直しです。力を出すにしても、どこから出すのか。どう捌くのか。力の使い方、です」