「大会中は、10回以上泣きました。なんか泣きキャラみたいになってますよね(笑)」
W杯3大会連続出場、バックス陣最年長、166cmの小さな体で桜の戦士たちを牽引した田中史朗(34)。涙もろさは、熱いハートの証しでもあるのだ。
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「最初に泣いたのは、大会前のメンバー発表。スクラムハーフが茂野(海人・28)、流(大・27)と呼ばれた後、ちょっと間が空いたんです。
なぜかというと、発表していたチームマネージャーは、僕と昔からずっと一緒にやってきた方だったので、彼が僕の名前を読み上げようとしたら泣いてしまって……。僕ももらい泣きです。
解散式でも、初めてリーチ(マイケル・31)が泣く姿を見て、グッときちゃって(笑)」
W杯開催国の重圧、年間240日もの厳しい代表合宿に、心が折れそうになったという。
「じつは、妻に何回も『もう諦めていい?』と愚痴っていたんです。合宿は、いままでの人生のなかで、いちばんしんどかった。
朝7時半からポジション別練習とフィットネスをやって、午後はチーム練習とフィットネス。夜ご飯を食べて、夜間練習。その後、さらにご飯を食べて寝るんですが、体が痛くて眠れなかった」
迎えた今大会。松島幸太朗(26)や福岡堅樹(27)の活躍に沸いたが、田中は「目立たなかった選手がいてこそ」と言う。
「中村亮土(28)や、ジェームス・ムーア(26)のディフェンスが印象に残っています。彼らの頑張りがあったからこそ、得点を取られなかったわけですし。流もそう。彼らがトライの陰で体を張ったからこそ、ベスト8に行けたということを、皆さんに知ってもらいたい。
自分のプレーで印象に残ってるのは、アイルランド戦ですかね。あの試合は20分ぐらいしか出てないのに、7回もタックルに行ってるんです。自分の中で、勝ちたいという気持ちが存分に出た試合じゃないかなと思います」
ラグビーでは、試合後のロッカールームに軽食とアルコールが用意される。ただ、田中には前回大会の苦い経験がある。
南アフリカから大金星を挙げたことに歓喜し、一部の選手が痛飲。次戦のスコットランド戦で敗れ、ベスト8入りを逃した。同じ轍は二度と踏まないという決意から、今大会中は、禁酒を貫いた。
「大会中は、一滴も飲まなかったです。ただ、南ア戦後は、妻に『今日は男泣きで飲むから、会われへんよ』と伝えました。
まず、チームみんなでロッカールームで飲んで、ホテルで飲んで、そこから各々に2次会、3次会という感じで。 僕はお寿司屋さんへ行って、その後、裏方さんたちを誘ってカラオケに行きました。久しぶりに朝まで飲んで、あんまり覚えてないんです(笑)」
ベスト8という快挙に、次回大会はさらに期待が高まる。
「さらなる上を目指すため、若い選手はどんどん海外に出ていって経験を積んでほしい。4年後は、今まで以上に厳しい戦いになる。
エディー(ジョーンズ前ヘッドコーチ)が言っていたのが、『100m走を100本やれと言うと、海外の選手は「アホか」と言って帰る。でも日本人は、文句を言いながらも走る。そこが日本人のメンタルのすごさだ』と。
やっぱり、しんどいことをやり切る覚悟がある人が代表に入るべき。自分も、4年後も代表として戦うつもりだし、そういう気持ちがなかったら選手として終わってしまう。ただ、あの地獄の合宿をまたやることだけが……(苦笑)」
(週刊FLASH 2019年11月19日号)