「打てない、守れないで、借金生活から抜けられへん。『超変革』ゆうのは、ころころ変わる打線のことかいな!」
逆風ばかりの阪神に、ビール片手に嘆く虎キチの気持ちが理解できる。そもそも金本知憲監督(48)が掲げた「超変革」は、若手の積極起用だった。
それなのに、髙山俊(23)、横田慎太郎(21)、陽川尚将(25)はいずれも不発。そんななかひとつの光明が、4月27日に支配下登録され、5月に月間MVPを獲得した原口文仁(24)。育成枠出身の野手では、史上初の快挙である。
平田勝男チーフコーチ(57)は、愛弟子の活躍に「どんな ときも腐らず、常に前向き。執念すら感じる」と目を細める。原口の執念は、彼のプロ人生に集約されている。
D6位で2010年に入団した原口は、2012年に椎間板ヘルニアと診断され自由契約を経て育成契約に。翌年に打撃ができるまで回復したが、シート打撃中に死球を受けて骨折の苦難を味わう。
「金本監督は自分もそうだったように、叩き上げの選手を好む。だからこそ原口を『よう諦めずに出てきてくれた』と絶賛している」(担当記者)
彼の野球人生は、小学4年生から始まった。当時、寄居ビクトリーズの代表を務めていた田中静雄さんが振り返る。
「小5から捕手をやらせたんですが、県大会初戦でのこと。相手の4番は体も大きく強打者。するとフミは、なぜか打席に入った4番打者のバットをずっと見ている。
で、球審に『リトル用のバットじゃない』と、アピールしたんです。バットにリトル用のシールが貼ってなかったから。実際は剥がれていただけだったんですが、野球を始めて2年の子が言うのかと驚きました」
中学で指導していた、深谷彩北リトルシニアの常木正浩監督が続ける。
「じつは当時から腰痛持ちで、打撃を生かすため一塁にコンバートしたんです。ただ、ある試合で振り返ることもできないほど痛みが出た。それでも泣き言をいわなかった。
高校は名門の帝京に行くわけですが、推薦したのはライバルチームの監督。こんなことめったにない(笑)。今でもオフにはグラウンドを訪れて、子供たちの指導や自主トレを続けてくれています。
ゲージで黙々と打った後、子供たちに『悪い部分を教えてくれ』と真顔で話す。子供たちは呆気にとられています(笑)」
当初、オールスターへは落選だったが、監督推薦で逆転選出が決まった。育成選手の経験がある捕手としては、史上初。
「小さいころからスター選手がプレーしているのを見てきたし、楽しみ」と語る原口の活躍に期待したい。
(週刊FLASH 2016年7月5日号)