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辛坊治郎の「Q&A日本国憲法」(2)改憲派の言い分、護憲派の言い分
社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.05.04 11:00 最終更新日:2016.05.04 11:00
あなたは「憲法」の何を知っているか? 本誌連載でもお馴染みの辛坊氏による「初級編の解説」からお届けしたい。
【Q6】改憲派がいちばん変えたいのは何条?
【A6】
まず第9条ですね。じつはあまり知られていませんが、第9条第1項の「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という文言は、1928年に締結されたパリ不戦条約からの引き写しで、同様の文言を憲法に書き込んでいる国はたくさんあるんです。
おもに議論になるのは第2項の「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という条文です。
【Q7】第9条第2項のどこが問題なの?
【A7】
はっきり言って、この条文を普通に読んで、日本が自衛隊を持てると思う人は少数派でしょう。政府の解釈では「この条文は自衛のための戦力保持を否定していない」ってことになっていますが、憲法を変えずに自衛隊を持つための「方便」と言われても仕方ないですよね。
マニアックな話ですが、じつは最初アメリカから示された案には「前項の目的を達するため」という言葉は入っておらず、これは当時の国会審議の修正で加えられたんです。
普通に解釈すると「戦争をしないために戦力を持たない」って読めますが、当時日本側がこの文言を足したのは、「前項の目的を達するため」、つまり「第1項に書いてある目的のための戦力は持たない」、逆に言えば、「第1項の規程と関係ない軍隊は持てる」と解釈する余地を作り出すためにつけ加えられたんです。
占領下の憲法作りがどんなものだったかを知るためにはとてもわかりやすいエピソードですが、この解釈には相当に無理がありますよね。
となると、自衛のための軍隊が必要だと考えるなら、やはりこの第9条第2項だけはどうしても変更して、「小学生が読んでも自衛隊が合憲になるようにしたい」ってことになります。これが改憲派の悲願です。
【Q8】第9条以外で、改憲派が変えたいのは?
【A8】
個別の条文を改正するということになると、その次に改憲派が目指すのは、前文と第13条です。改憲派の皆さんにとっては、前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう」という考え方は、現実の国際関係から見てあまりに荒唐無稽です。
また、「すべて国民は、個人として尊重される」と定めた憲法第13条は「あまりに個人を強調しすぎていて、他人を顧みず自分勝手な人々が横行する元となっている」ってことで、すこぶる評判が悪いんです。
【Q9】一方、護憲派が守りたい条文は何?
【A9】
これもなんといっても第9条に尽きます。戦後、「教え子を再び戦場に送るな」をスローガンに組織作りをした教職員の組合や、当時のソ連を中心とする共産主義国を理想の国と考えた左派系の人々にとって、日本が憲法第9条を改正して武装し、「アメリカとともに戦う国」になる可能性はどうしても許せなかったんですね。
【Q10】なぜ、護憲派は守りたいの?
【A10】
この皆さんは「日本が平和なのは第9条のおかげ」と考えているわけですから、第9条の改正が絶対に許せないのは当然すぎるほど当然です。
じつは第9条改正反対派のなかにも、「第9条の改正は反対だけれども、世界の憲法では主流になりつつある環境権やプライバシー権などは加える必要がある」って思っている人も少なくないんですが、「現行憲法を一文字でも変えることは、第9条改正に道を開く」という意見に押されて、積極的に声をあげ難い環境にあるのも事実です。
(その3に続きます)
(週刊FLASH 2013年9月24日号)