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柴咲コウが火をつけた「種苗法改正」なにが問題だったのか

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.06.01 16:59 最終更新日:2020.06.01 17:08

柴咲コウが火をつけた「種苗法改正」なにが問題だったのか

 

■種苗法ってなんだ?

 

 柴咲コウがツイッターで「このままでは日本の農家さんが窮地に立たされてしまいます」と反対意見を表明した「種苗法」。現在、柴咲のツイートは削除されているが、「これは、他人事ではありません。自分たちの食卓に直結することです」とあったことから、SNSで大きな議論を呼んだ。

 

 種苗法とは、一体どのような内容なのか。

 

 

 まず、種苗とは、植物の種や苗のことを指す。誰でも知っている「コシヒカリ」をはじめ、農作物にはさまざまなブランドがある。このブランドを守ろうというのが「種苗法」の根本だ。勝手に栽培されないように、勝手に外国に持ち出されないようにするため、今回、法改正が目指された。

 

 日本が誇る品種は、これまで数多く海外流出している。「シャインマスカット」や「とちおとめ」は、すでに韓国や中国で栽培されている。2018年2月の平昌五輪で、カーリング女子日本代表が韓国のイチゴを食べる場面が話題になったが、当時の斎藤健農水相は「日本から流出した品種をもとに、韓国で買われたものだ」と指摘している。つまり、日本の財産が勝手に持ち出された、ということだ。

 

 今回の法改正で大きく変わるのは2つある。1つは、新品種を登録する場合、輸出先や栽培地域を自分で決定できること。これにより、意図しない海外流出が防げる。

 

 もう1つが、柴咲が「日本の農家が窮地に立たされる」と指摘した自家採種の禁止。

 

 農作物を育てれば、当然、種ができる。その種を再び使う場合、開発者に許諾が必要になるのだ。このため、農家は種や苗のコストが余分にかかってしまう。ただし、禁止される品種はコメの16%、みかんの2%、ぶどうの9%程度で、残りは自由に自家採種してかまわない。具体的には、お米の「コシヒカリ」「ひとめぼれ」「あきたこまち」はOKだが、「ゆめぴりか」は許可がいるということだ。

 

 種苗法改正案に対し、当事者はどのような見方をしているのか。賛成と反対の意見を聞いてみた。

 

■賛成派の意見

 

 民間でぶどうの育種を20年続けてきた「林ぶどう研究所」の林慎悟さんは、「今回の法改正は、育種家の立場としてはメリットが多い」と話す。

 

「私自身、『マスカットジパング』という新品種のぶどうを作った経験がありますが、開発には10年かかりました。品種登録の手続きは膨大ですし、その権利を守ることは容易ではありません。新品種の開発には、ものによっては数千万円、数億円かかるんです。

 

 それでも、果樹の民間育種では、利益は数十万程度。100万円を超えて返ってくるケースはほとんど見たことがありません。現状、育種家の方で、開発にかかった費用を回収できている人は、民間では少ないでしょう。私自身、育種の恩師から『育種をすると貧乏になる』と言われたこともありました。

 

 農業の生産現場は共支えです。育種によって、環境の変化に対応したり、生産管理しやすい品種を開発すれば、生産現場はコストダウンできて、リスクを減らして生産できる。育種する人間と生産する人間が揃ってこそ、初めてお互いに利益を生み出せるんです。

 

 そういった意味で、今回の法改正は、育種家サイドに今よりも適切な利益をもたらしながら、いい意味での自由競争を促そうとしているものだと考えています」

 

 柴咲に対して、ツイッターで「アーティストの楽曲をパクってもコピーしてもいいってことかな」といったコメントがあったが、要は、農作物の著作権を認めてほしい、という立場なのだ。

 

■反対派の意見

 

 種苗法改正に反対する、市民セクター政策機構の代表専務理事・白井和宏さんは、「食糧自給率を高めるためにも、自家採種は認めるべきだ」と話す。

 

「新型コロナの影響で、海外では食糧の輸出を禁止し始めています。たとえばロシアは、6月末まで穀物の輸出停止を表明しています。世界で特に小麦は状況が厳しく、スパゲッティの生産もままならなくなってきた。日本では、家畜のエサとなるトウモロコシも大豆もはほとんど輸入ですから、これらが今後入ってこなくなれば、日本で家畜を育てることも難しくなるでしょう。

 

 今までは輸入に頼ってきたし、これからもどんどん頼っていく方針でした。しかし、今後これまでどおりに輸入ができるかは不透明です。そのために、自家増殖の禁止などせず、国内の農家が自由に生産できるようにすべきです。

 

 そして、外国人観光客が戻ってくれば、日本の種の価値が上がってくる。種を育成するための助成をおこない、地域を活性化していく施策を進めるべきなんです」

 

 白井さんが、種苗法改正では日本の品種を守れないと考えるのは理由がある。それは、農水省に日本の農業を守る意思が感じられないからだ。

 

「今回の種苗法改正案は、2017年の『種子法』の廃止とセットで考えなければいけないんです。
 種子法の廃止で、公的機関による種苗事業が民間に移され、種子の開発が止まりました。同時に、『農業競争力強化支援法』により、日本の財産である種苗を、外国企業も含めた民間企業に提供を促すことが決まったんです。

 

 そこにきて、今回の種苗法改正案です。自家採取に規制をかければ、国内の自由な生産が抑制され、日本の農業は衰退する一方です。でも、政府としたら、日本の種子を日本企業や海外企業に買ってもらって、海外で生産してもらえばいい。海外の大規模な生産でより大きな利益が出ますから」

 

 SNSでは、種苗法改正で「海外企業に日本の農業が乗っ取られる」という意見が頻出した。たとえば、海外の種子メーカーが、最初は安く種子を売り、その後、一気に値段を上げたとしても、農家はそれを買うしかない。実際に海外では、農民が種子メーカーに隷属するような状況も起きている。

 
 賛成派の林さんは、「実際問題、僕らも苗が売れなければ収入はない。苗の値段を法外に引き上げることにはならないと考えています。農業も、市場原理のなかで動いていますから」と話す。

 

■日本の農業力を強くしたい

 

 反対派の白井さんは、「もし海外での生産を防ごうとした場合、向こうで裁判を起こし、商標登録して戦うしかない。現実には種苗法で日本の種子は守れない」とも話す。賛成派の林さんも「コストを考えれば、裁判なんかやらないだろう」との意見だ。

 

 実は、林さんも白井さんも、「日本の農業力を高めたい」という思いは一緒なのだ。

 

「農業は、平均年齢が60代、70代になってしまうような業界です。国内で生産を完結させるためにも、新規就農者が少ない現状を変え、ほかの業種からの参入も含めた振興が必要だという国の意図を、種子法廃止から一連の法改正で感じています。今の状況が10年続けば、日本の農業人口はおそらく10分の1になってしまう。そうなったとき、国民全員の食料を担保できるのか、僕は非常に疑問です」(林さん)

 

「農業人口は高齢化していますし、近年は異常気象も著しい。リスクを減らすという意味で、もう一度国内の生産力を高めることが大事になってくるでしょう」(白井さん)

 

 目指す地点は一緒だが、賛成派と反対派の議論がかみ合わないのは、この法案がほとんど国民の間で議論されてこなかったからだ。柴咲コウも、「賛成、反対だけでなく、その間にある声も聞きながらベストを探っていく。その時間が必要だと思うのです」とツイートしている。

 

 政府は、通常国会の会期を延長しない方針を固めたため、今国会での種苗法改正は絶望的となった。次の国会まで、「ベストを探っていく」ような議論を深めたい。

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