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川瀬陽太、ピンク映画で培った役者魂「いかに環境にハマるか」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.07.13 20:00 最終更新日:2020.07.13 20:00

川瀬陽太、ピンク映画で培った役者魂「いかに環境にハマるか」

 

 川瀬陽太(50)は一匹狼である。過去にわずかな期間、事務所に所属したが、現在はフリー。スマホがマネージャー代わりだ。取材場所となった新宿・思い出横丁の行きつけ「辰乃家」にも、ひとりふらりと現われた。

 

「昨日、やっと持続化給付金の手続きをすませましたよ。これがまた、面倒でね。途中、何度もイヤになった(笑)。

 

 

(自粛期間中は)映画もドラマも、すべて撮影は止まりました。役者やスタッフは、理不尽な状況にずっと耐えています。俺なんか、まだいい。ただでさえ食うや食わずなのに、いまや家賃も払えなくなった若い連中が、大勢いるんです」

 

 川瀬は、そんな若手映画人のよき兄貴分だ。ギャラの多寡にこだわらず、オファーが来た順から仕事を受け、ハリウッド大作への出演を逃したことも。独立系作品への出演が多く、主演映画もコンスタントに作られる。若い時分は、ピンク映画の人気俳優だった。

 

「1980年代末、美大浪人中に、福居ショウジンさんの美術や助監督を始めたんです。予備校時代の友達に、自主映画のスタッフ募集のフライヤーをもらって。明確な映画作りへの意志があったわけじゃなく、モラトリアムに近かったです。

 

 ただ、父が理工系の大学講師をしていて、実験の記録用に8ミリカメラや編集機材を持っていたんで、子供のころに、粘土のコマ撮りアニメなんかも遊びで作っていました。撮影のあいだに日の光が、かげっていく。そんな様子を『映画的だ』と感じてましたかね」

 

 虫が光をめがけて飛ぶように、映画の虜になっていった。1995年、美術スタッフとして参加していた福居監督の『RUBBER'S LOVER』(公開は1996年)で急遽、主役を仰せつかる。

 

 次に、詩人の福間健二監督作『急にたどりついてしまう』に出演。いまや大家となった瀬々敬久監督とも、その現場で対面した。

 

「 “生涯で一番の劇薬” に出会っちゃった(笑)。当時、まわりはフリッパーズ・ギターとか聴いていて、“ダサい暗い” は苦手でしたが、そんな価値基準がガラガラ崩れました。

 

 瀬々さんは、強靱な思想性を持つピンクを撮る人で、近年の『64-ロクヨン-』(2016年)や『菊とギロチン』(2018年)のような大作でも、そのアプローチは変わんない。現場では相変わらず、不器用にやってます」

 

 そのころまで助監督として「こき使われてきた」経験が、今でも息づいている。自身の出演作を語る際にも、どこか演出家の目線があるが、川瀬はこう謙遜する。

 

「いや、俺ごときが演出や、ましてや演技論を語るなんておこがましいですよ。ピンクの縁で、いろんな現場に呼ばれて、なんとかなってきただけ。『与えられた環境に、いかにハマるか』しか、昔も今も考えていません。

 

 もともとこっちは役者じゃないし、裸になって絡んだところで、キャリアがどうもこうもないじゃないですか(笑)」

 

25年前のピンク映画デビュー作『すけべてんこもり』(瀬々監督)でのひとコマ

 

 映画、テレビドラマ、Vシネマを合わせると、出演作は200本をゆうに超える。それもスタッフやほかの役者と “密” に関わった結果。今回訪れた辰乃家も、サラリーマン、映画人、ミュージシャンなど、さまざまな人が集う。

 

「晩年の若松孝二作品の音楽担当だった、(元ソニック・ユースの)ジム・オルークさんに10年ほど前に教わって以来、よく来ています。飲むのは決まってウーロンハイ。もうビールは、すぐおなかいっぱいになっちゃうから」

 

 勢いよくグラスを傾け、軟骨の食感と辛めのタレが人気の特製つくねを頬張る。

 

 辰乃家でほどよく飲んだら、次に繰り出すのはゴールデン街の「Barダーリン」だ。俳優仲間の石川ゆうや(46)が経営する店。2人は、故・林由美香さん主演のピンク映画『ベストフレンド』(吉行由実監督、1998年)では共演もした。「ノンケの幼馴染み(石川)を思い続けるゲイの男性」という難役に、川瀬は挑んだ。

 

「すっかり忘れてたけど、思い返すとくすぐったいね(笑)。ソーシャルディスタンシングか……。今回のコロナってある意味、戦争を超えているでしょ。これから先、恋愛や映画の形も変わっていくはず。

 

 コロナ前に撮影を終えた3本は、暴力刑事もの、ピンク、テレビドラマでのアウトロー役と、見事なまでに濃厚接触。僕らの仕事は、濡れ場だろうが喧嘩だろうがコメディだろうが、ぜんぶ濃厚ですからね(笑)」

 

 本人も語るように、川瀬は「器用な役者」ではない。ピンク映画の現場で素っ裸になったときの心で、今も作品に没入する。映画という光に飛び込む、一匹の虫のままなのだ。

 

かわせようた
1969年12月28日生まれ 神奈川県出身 1995年デビュー。2015年度「日本映画プロフェッショナル大賞」主演男優賞を、染谷将太と同時受賞。出演作品は200本を超え、出演映画『横須賀綺譚』(大塚信一監督、ケイズシネマにて7月11日~)、『テイクオーバーゾーン』(山嵜晋平監督、キネカ大森にて7月31日~)などの公開が控えている

 

【SHOP DATA/辰乃家】
・住所/東京都新宿区西新宿1-2-7
・営業時間/17:00~24:00(LO23:30)
・休み/日曜

 

取材&文・鈴木隆祐

 

(週刊FLASH 2020年7月14日号)

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