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名曲散歩/尾藤イサオ『あしたのジョー』歌詞を忘れて「ルルルルー」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.09.20 16:00 最終更新日:2020.09.20 16:00

名曲散歩/尾藤イサオ『あしたのジョー』歌詞を忘れて「ルルルルー」

 

 東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。

 

お客さん:お、このイントロは、尾藤イサオの『あしたのジョー』。血が沸き立つ一方で、哀しみが詰まった切ない曲だよなあ。

 

 

マスター:1970年から放送されたアニメ『あしたのジョー』(フジテレビ系)の主題歌で、作詞は詩人・寺山修司だ。

 

お客さん:寺山修司といえば、ジョーのライバル力石徹が死んだときに、葬儀を呼びかけて主催したことで知られているよね。

 

マスター:そうそう。主題歌を歌ったのはおなじみの尾藤イサオだ。

 

お客さん:この歌声じゃなきゃってくらい、ハマってるよね! ところで尾藤イサオって、もともとは曲芸師だったと聞いたことがあるけど。

 

マスター:父親が百面相の芸人で、母親は寄席で三味線を弾いていたそうだ。そういう一家に育ち、小6のときに曲芸の師匠に弟子入りしたという。ただ、その後、エルビス・プレスリーに傾倒して、ロカビリー歌手に転向するんだ。1966年には、あのビートルズの武道館公演の前座を務めた。

 

お客さん:前座はザ・ドリフターズだけじゃなかったんだ!

 

マスター:そして1970年、『あしたのジョー』の主題歌の話が舞い込んできた。もともと『少年マガジン』で『ジョー』を読んでいたから嬉しかったそうだよ。

 

お客さん:そりゃそうだろうね!

 

マスター:歌の途中で「ルルルルー」ってスキャットがあるでしょ。実はあれ、尾藤イサオのオリジナルなんだよ。

 

お客さん:ってことは、寺山修司の歌詞を変えちゃったの?

 

マスター:そう。それは作曲家・八木正生の家でオーディションしたときのこと。尾藤イサオが歌い出した瞬間、レコード会社の人たちが「いいじゃない!」ってザワザワしだしたんだって。

 

お客さん:ほうほう。

 

マスター:そのザワザワが嬉しくて一気に興奮したそうだ。急に歌詞がわからなくなり、苦し紛れに「ルルルルー」って歌ったところ、逆に評判がよくて、それが採用されたという。

 

お客さん:寺山修司が書いたのはどんな詞だったのか気になるけど、これはこれで素晴らしいよね! 

 

 おっ、次の曲は……。

 

文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中

 

参考:MXTOKYO『ミュージック・モア』(2020年8月7日)/山下勝利『男の背中』(河出書房新社)

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