2018年4月におこなった手術は無事に成功したが、術後の病理検査で、ステージ3aだったことが判明した。5月からは抗がん剤治療を始めたが、仕事との両立には綿密な計画が必要だったという。
「治療が2週間に1回のペースで入っていたので、治療して1週間はお休み、次の1週間はお仕事を入れる……というリズムで動いていました。
それでも、やっぱり体が言うことを聞かないんです。手足がずっとしびれていて、電気風呂に入り続けているような感じ。他人からは手足がしびれていることは見えないので、伝えづらいツラさだなぁと、孤独感を感じていました。
副作用もキツかったですね。髪の毛が抜けてしまうし、肌も黒ずむレベルでくすんじゃうんです。爪の中まで黒くなっちゃうので、濃い目のネイルを塗って隠していました」
副作用による外見の変化に、心が追いつかない日々もあった。
「髪の毛が抜けてウィッグをしていた時期もあって……。周りの友達はSNSでかわいい自撮りを投稿しているけど、私はウィッグ。どうしても、心の底からおしゃれできている感覚が持てませんでした。
でも、医療用ウィッグでもいろいろなアレンジができることを教えていただいて、一気に世界が広がりました。ウィッグをつけていようがいまいが、今までと変わらずにおしゃれを楽しめるんだって思えたんです」
こうした自身の体験をもとに、矢方は10月から、がん治療における見た目の悩みや解決方法を紹介する「#あぴサポチャンネル」をYouTubeでスタートさせている。
副作用を乗り越え、4カ月ほどの抗がん剤治療を終えた後は、放射線治療を経てホルモン治療へ。現在は、3カ月に1回ほどの通院で治療を進めている。
「治療の影響でホルモンのバランスが崩れてしまうので、体温調節はできないし、体のだるさも以前より強いです。昔だったら1日でこなせていた仕事量が、今は半分ぐらい。なかなかマックスの力で仕事できないことが悩みですね。
自分が乳がんになることも、抗がん剤治療をすることも、1ミリも想定していませんでした。でも、乳がんのツラさを知ったことは、私の人生にとってすっごく大きいと思っています。当たり前だと思っていたことが、全然当たり前じゃないって気づくきっかけになりましたから」
乳がんを受け止め、前を向けるようになったことで、再建手術に対する考え方も変化してきた。
「最初は再建手術をするつもりだったんですが、今はしない方向へ気持ちが強く傾いています。
最初は『手術しないと……』って思ってたんです。片方がないのはバランスがおかしいのかな、手術できるならやった方がお得かなって。でも、放射線治療をした後だと、再建手術の方法って選択肢が限られてしまうんです。正直考えるのがめんどうだな、とは思っていました。
同じ乳がんにかかった方のお話を聞く機会も増えてきました。再建していない人の生活や、お話されている姿を見ると、『ショック』みたいなトーンで話していない。今の自分に満足というか、『これが自分』と思っている人が多いのがすごく印象的でした。
私はいま仕事が楽しいし、キャリアに関する悩みも多い。病気で悩むより、仕事で悩んで前に進んだ方が性に合っている気もする。そんなふうにあれこれ考えて、再建しないことを決めました。多分、この気持ちは変わらないと思います」