――2017年から演出に携わられたなかで、それまでと変化させた部分はありますか?
桑山 ネタ順を事前に決めず、当日その場で決定する「笑御籤(えみくじ)」がそうですね。発案は前任の田中和也(現:チーフプロデューサー)なのですが、周囲はみな「マジで!?」と驚きました(笑)。
そのための準備は大変でした。今までは順番が決まっているので流れも事前にわかっていましたが、なにせ次に誰が出てくるかもわからないので「次は〇〇」と名前も書けないし、展開も読めないので台本が以前の1.5倍になりました。
昨年からは敗者復活組もその場で発表して、すぐにスタジオへ移動に変わりました。それによってCMが入る位置もわからなくなったり、敗者復活側はいつ発表されるかわからないからずっと待たないといけない。
ライブ感はこの3年でよりブラッシュアップしてきました。以前は「20時だからそろそろ最終決戦進出1組目が決まるな」とか、敗者復活組は最後だから何かドラマが起こりそうとか予想がついたと思うんですが、制作者側でさえ予想がつかない。より予測不能なドラマが起こる“装置”を用意できているとは思います。
――予想させないように演出していると。
桑山 1分1秒先がわからないようにとは考えていましたが、まさか笑御籤がこんなに神がかるとは予想外でした。毎年、どんな名作家でも、名演出家でもこの出番順は想定できないだろうなという順番で籤が出てくるので。
もともと、芸人さんも自分の順番がわかっているのは平等さに欠けるというか、イヤだろうなという思いがありました。「トップバッターは不利」と言われることがありますが、そのトップバッターが2週間も前に決まってしまう。「あートップバッターか……」と思いながら当日を迎えるのはどうなんだ。「トップだから優勝はないだろう。せめて盛り上げてやろう」みたいな気持ちで挑むのだろうかと。
トップで籤を引かれるのも運命だし、何番目に出るかも神のみぞ知る方が、ある意味フラットで、賞レースとして平等なシステムだと思うんです。
初年度はちゃんとうまくいくか、トップバッターがトチったりセリフを派手に噛んだりして、大波乱になるんじゃないかと思ったんですが、漫才師の方々もM-1スタッフも、みんなが完璧にやってくれたので続いています。
ライブ感を大切にしたいという思いも強いです。生放送であるM-1を、ちゃんとライブで楽しんでもらえているのだろうか。勝つか負けるか、何が起きるかわからないという“予測不能感”を大事にしています。
ネタ以外の部分をどう面白くするかも重要なので、審査も一つのショーにしようという面もあります。
審査員全員からコメントをもらうことも、昨年に変えた点です。それまでは基本的に、高得点をつけた審査員に話を聞いていました。低評価の方の話は、芸人さんを傷つけてしまうかもしれないし、審査員の皆さんも話しにくいだろうと。
でも、7人全員に聞けないこともありますが、なるべく全員に聞いて「高得点の理由」「低得点の理由」も全部明かすという。それがよりライブ感を生んで、ガチの審査ショーとしても面白くなると考えています。