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渡辺いっけい、『劇団☆新感線』に自らスカウトした天才は…古田新太
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.03.15 16:00 最終更新日:2021.03.15 16:00
NHK大河ドラマ『青天を衝け』で徳川斉昭の側近・藤田東湖を好演した渡辺いっけい。多くのヒット作品に出演する彼の役者の原点でもあるのが、いのうえひでのり率いる人気劇団「劇団☆新感線」。いのうえとの出会いと、古田新太との出会いを語る。
――大阪芸術大学に入学したとき、すでに「劇団☆新感線」は人気劇団だった?
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僕が入学する前は、わずか数名しかいない劇団だったんです。いまの座長のいのうえさんが2年生だったとき、4年生たちの卒業記念に、当時、大人気だったつかこうへいさんの『熱海殺人事件』をやることになって。
ところが、4年生が3人しか集まらなくて、いのうえさんが駆り出されたそうです。その4年生の誰かがつけたのが「新感線」という劇団名なんです。
一度だけということで『熱海殺人事件』を学内で上演したら、たまたま大阪の小劇場の方が観に来ていて、ほかの大学でも「熱海殺人事件」をやっているから、4大学ぐらいを集めて「熱海まつり」をやりたいと。
それで、もう一度だけということで上演したら大好評だった。いのうえさんがやめちゃうのはもったいないから「新感線」という名前を引き継がせてほしいと頼んで了承をもらい、「新感線」がスタートしました。それからいのうえさんが同級生や後輩に声をかけ、つかさんの芝居を独自にやりだしたんです。
――入学後はすぐに「新感線」に入団を?
僕が1年生で入学したとき、いのうえさんは3年生。進級試験を兼ねた『ロミオとジュリエット』を学内で上演したんですが、僕は体力不足で役がもらえなかったんです。
でも、ロレンス神父を演じる予定だった人が退学してしまって、急遽、僕が演じることになったんですね。3日間、必死にセリフを覚えて演じたんですが、それをたまたまいのうえさんが観ていた。それで「気持ち悪い演技をするやつがいる」ってお声がかかったんです。
あのとき、ロレンス神父を演じる予定だった人がそのまま演じていれば、僕はプロローグで口上を述べるだけだったので、いのうえさんの目にはとまらず、ここにいなかった。
そう思うと、自分の力でのし上がるということではなく、ちょっとしたきっかけや出会いが縁でっていうことはよくありますよね。それで「新感線」に入団しました。
でもそのころは本当に少数精鋭でした。筧(利夫)くんも同級生で同じころに入団したんですが、すでに目立つ芝居をやっていました。
――それから「劇団☆新感線」は人気劇団に?
いやいや、逆に疎まれる存在でした。というのも、つかさんをやっていたころはまだよかったんですが、『スター・ウォーズ』のおちゃらけとか、オリジナルでくだらない作品をやっていたんですよ。今と変わらないけど(笑)。
さらに、いのうえさんが「ひらがなのえんげきを目指す」とか言い出したので、大阪芸大の教授たちからも「なんだ、あいつは」みたいに思われて。学内では「新感線にかかわるな」って言われてたぐらい(笑)。
そんなこんなで僕と筧くんも4年生になり、いのうえさんから「役者として一本立ちしたいなら、東京に出たほうがいいよ」と。それで、僕らは「東京に出ます」と言って、いのうえさんも了承してくれまして。
ただ、即戦力が2人抜けるのは痛いから、1人ずつ、即戦力になる人材をスカウトしてこいってなったんです。いのうえさんは自分でスカウトしたいんだけど、学内に出入りできないような状態だったんで。それで僕が自主稽古をしている後輩たちを観て、「こいつ誰? うまい!」と思ったのが古田(新太)だったんです。
――古田新太さんは渡辺さんの目から見ても光る存在だった?
もうピカイチでした。古田は1年生で入り立てで、3年生主体の劇団に参加していたんです。何がすごいって、めちゃくちゃうまいのに、出すぎないように演技を抑えているんですよ。それが僕にはわかったんですね。こいつはすげえ、爪を隠してるって。本当にうまいと思ったな。
いのうえさんはあてがきの天才で、僕なんてほとんど人間じゃない役が多かった(笑)。そのいのうえさんが古田を見たら、どんなあてがきをするんだろうって、お客として観てみたいと思ったんです。
それで古田に声をかけて、「新感線に来ない?」って誘ったんです。女にモテるし、テレビにも出られるよって、おいしいことを僕も言ったので、古田は今でも「騙された」って言ってます(笑)。
古田はクラシックバレエをやっていて、大阪芸大でもミュージカルコースに在籍して、「劇団四季」を目指してたんです。ところが僕が「新感線」に連れていったら、いのうえさんも気に入って、そのままずるずると「新感線」に出入りするようになったんですよ。
――「劇団四季」に入団するはずが「新感線」へ。古田さんとは今も当時の話を?
東京に出てきてお互いひとりでやるようになり、だいぶ経ってからふたりで飲んだとき、古田が悪酔いして絡んできたことがあって。
「今頃、歌って踊って笑わせる、劇団四季を背負って立つ男になってたかもしれないのに。本当にあなたのおかげでね、いいかげんにしてくださいよ」って(笑)。
だから僕も笑いながら「今も『新感線』で歌って踊ってるんだから変わらなくない?」って言ったりね。
古田は本当に演技もうまいんだけど、人としてもおもしろい。飽きないですね。僕は男だから、もちろんあいつに惚れることはないけど、女だったら危ない(笑)。
ある舞台で古田と一緒になったんだけど、ある日、楽屋に置かれているみなさんから送られてきた花に水をあげてたんですよ。思わず「水とかあげるんだ?」って聞いたら、「だって、かわいそうじゃないですか」とひとこと言ったんですよ。なんかキュンときません?
普通のことかもしれないけど、悪そうなやつだからこそ、魅力的に見える瞬間があって。あいつ、本当にずるいんですよ。何年一緒にいても飽きない、古田は本当に楽しい人です。
わたなべいっけい
1962年10月27日生まれ 愛知県出身 1983年、大阪芸術大学在学中に学生劇団「劇団☆新感線」に参加。1985年、大学卒業後に上京し、状況劇場に入団(1988年に退団)。1992年、NHK連続テレビ小説『ひらり』で好演して以後、多くのテレビドラマでも活躍。現在放送中のNHK大河ドラマ『青天を衝け』では徳川斉昭の側近・藤田東湖を演じた