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【坂本冬美のモゴモゴモゴ】『祝い酒』で初出場した紅白、思い出は4つだけ
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.05.01 11:00 最終更新日:2021.05.01 11:00
『NHK紅白歌合戦』ーー。
“もぎたて演歌歌手” としてデビューしたわたしにとって、それは憧れであり、大きな目標でした。
その夢のステージに、わたしを連れていってくれたのが、コブシをころんころんと転がさなければいけない難曲、3枚めのシングル『祝い酒』(1988年発売)でした。
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時代を超えて、老若男女に愛されるお祝いソング。それを、デビュー2年めのわたしに歌わせることに、大きな意味があったのだと思います。
20年後、30年後の坂本冬美を思って、猪俣公章先生はこの曲を作ってくださったんだろうなということが、今になってわかります。
その先生から、『紅白』の舞台に立つにあたって、きつく言われたのが……「泣くなよ。泣いたら歌えなくなるから、絶対に泣くな」というお言葉でした。
わたしのために、仰ってくださったというのは、痛いほどわかります。よぉ〜くわかります。でも、です。この言葉がず〜〜〜っと、頭にこびりついて離れませんでした。
■石川さゆりさんが、そっと手を繋いでくれて……
さらに、さらに、本番直前、わたしがステージに向かって歩いていこうとしたそのときに、ずっと憧れていた石川さゆりさんが、背中をポ〜ンと押しながら耳元で「さぁ、行ってらっしゃい」と、囁いてくれたのです。
うわぁぁぁぁ。さゆりさんが……さゆりさんが……背中を押してくれたぁ。
もう、パニック寸前です。頭の中は、さゆりさんの言葉と、「泣くな」という言葉が、ぐるぐると渦を巻き、出口を探して、のたうっています。
どうやって歌ったのか……、記憶は定かではありません。覚えているのは、泣かずに最後まで歌い切ったことと、袖に引っ込んだ瞬間、ボロボロと涙がこぼれ落ちたことと、もうひとつ……。
次の出番を待っていた桂銀淑さんが、「冬美、なんで泣いてるの? いやだ、私も泣いちゃうじゃない」と、目を赤くしながらステージに出ていったことです。桂さん、ごめんなさい。
そこからまたしばらく、頭の中は真っ白で。次に覚えているのは、みんなで『蛍の光』を歌っているとき、横に立っていたさゆりさんが、そっと手を繋いでくださったことです。
あれだけは、忘れません。さゆりさんの手は、ちっちゃくて、柔らかくて、ものすごく女の人らしい手でした。
記念すべき、初出場の『紅白歌合戦』の思い出を簡潔に言うと……さゆりさんが背中を押してくれた。『蛍の光』。泣いちゃいけない。桂さんが泣いちゃった、この4つだけ。
今回は、我ながらお恥ずかしいエピソードでした。では、また――。
えっ!? 『祝い酒』にはもうひとつエピソードがある? はて、なんのことでしょう。み・ず・ぎ? おやおや、夢でも見ているのでは? はい? 編集部に証拠写真がある? ひょえ〜〜〜っ。
撮りました。撮りましたけど、あれは海に入って顔だけ出して、一枚パシャッと撮るだけだからという宣伝マンの甘い言葉に、まんまと騙された結果で……。
だって沖縄に連れていってくれるって言うから……沖縄に行きたかったんだもん……モゴモゴモゴ……。
坂本冬美、人生最大の汚点、黒歴史です。あ〜お願いですから、その証拠写真を永久に写真室の奥深くに封印して、開かない鍵をかけてください。
坂本冬美から、一生に一度のお願いです!
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』など数多くのヒット曲を持ち、『また君に恋してる』は社会現象にもなった。最新シングル『ブッダのように私は死んだ』を含む、35周年記念ベスト『坂本冬美35th』が発売中
写真・中村功
構成・工藤晋
(週刊FLASH 2021年5月11日・18日号)