講談師は寄席に出るだけでは生活が苦しい。入門前に100万円以上貯金していて、取り崩す人が多いという。
二ツ目に昇進した伯山は、メディアに活動の場を広げた。
「一人でしゃべるので、ラジオは楽しいです。ほかのメディアは苦手ですね。
それでもディズニーランドや映画など、ありとあらゆるエンタテインメントから多くのお客様を寄席に呼ぶにはスポークスマンが必要です。ほかにやる方がいないので、僕がやっている感じです。手応えは……徐々に徐々に。着実に、少しずつですが」
人気者ゆえ伯山への弟子入り希望者は、後を絶たない。だが、その状況に複雑な思いも抱えている。
「10月から弟子を採ろうと考えていますが、講談に対しての真剣度合いが少ない人が多い気がします。『僕のことを知っているだけ?』とすら感じます。少なくても1年は寄席でいろいろな方の講談を聴き込んでほしいです」
弟子を採る伯山は自身の「師匠像」をどのように描いているのだろうか。
「僕が入門したとき松鯉はすでに大ベテランだったので、まさに芸の集大成でした。
だけど、僕は30代の講談師。お客様と対峙して、もがき苦しんで失敗している姿を弟子は見ることができます。もがいている師匠を見られるのは一番弟子などの特権だと思います」
談志さんへの敬慕を語った伯山に「もし談志師匠が存命だったら、真打になって何を一緒にしたかったか?」と聞くと予想外の答えが返ってきた。
「談志師匠のことは変わらず尊敬しています。しかし、誤解を恐れずに言えば、談志師匠が生きていないことは、僕の講談にとっては幸せなことなのかな、と思います。
談志師匠は、講談や浪曲をノスタルジー的にとらえていた方なんですよね。ノスタルジー的な見方だと僕の講談は気に入らないでしょう。何か言われていたかもしれません。そうなると、談志師匠を苦手になってしまう。そうならなかったことが、僕には幸運なんです」
伯山は「これも談志師匠の言葉ですが」と言ってインタビューを締めた。
「『幸せの基準は自分で決める』とおっしゃいました。本質的に個人の幸せは自分の心持ちということなのでしょう。僕にとっての幸せ。それは講談です」
伯山の目力がいっそう強くなった。
かんだはくざん
1983年6月4日生まれ 東京都出身 武蔵大学卒業後、2007年、三代目神田松鯉に入門し、「松之丞」。2012年、二ツ目昇進。2018年「第35回浅草芸能大賞」新人賞、2019年「平成30年度 花形演芸大賞」金賞を受賞。2020年2月、真打昇進、六代目神田伯山襲名。『問わず語りの神田伯山』(TBSラジオ、毎週金曜日21:30~22:00)に出演中
【翁そば】
住所/東京都台東区浅草2-5-3
営業時間/11:45~15:00、16:30~19:00
休日/日曜日
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(週刊FLASH 2021年6月29日・7月6日号)