エンタメ・アイドル
名曲散歩/河島英五『時代おくれ』バブル景気の行く末を見つめ続けた曲
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.07.18 16:00 最終更新日:2021.07.18 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロは河島英五の『時代おくれ』。メロディといい、歌詞といい、歌声といい、胸に沁みるねえ……。
【関連記事:名曲散歩/『君は1000%』カルロス・トシキ、ブラジルで大成功】
マスター:1986年リリース、作詞作曲は阿久悠&森田公一。『あの鐘を鳴らすのはあなた』『青春時代』『気まぐれヴィーナス』など、あまたの名曲を世に送り出した。
お客さん:『酒と涙と男と女』が河島英五の作詞作曲だから、『時代おくれ』も河島英五の作品と思っている人も多いよね。
マスター:この『時代おくれ』は、発売からしばらく売れなかった。
お客さん:発売された1986年といえば、バブル景気が始まった年。
マスター:世の中が浮かれていたとき、この曲は世間に届かなかったのかもしれない。阿久悠自身も「1986年に『時代おくれ』という詞を書くのは、かなり酔狂に思われた」と振り返っている。
お客さん:逆に言えば、あの頃の日本人の姿を、冷静に見つめていたんだね。
マスター:阿久悠は、こんな時代の空気を疑問に思う人もいるはずだと、この歌を書いたという。
お客さん:それがのちにヒットするんだよね。
マスター:ヒットしたのは1991年のこと。
お客さん:1991年といえば、バブル景気が終わったとされる年だ。
マスター:河島英五はこの年の『紅白歌合戦』に出場し、第1部の白組トリで、ピアノを弾きながら『時代おくれ』を熱唱した。
お客さん:『時代おくれ』は、ある意味、時代の先を見据えていた曲だったんだなあ。
マスター:河島英五は2001年4月16日、まだ48歳の若さで人生の幕を閉じた。
お客さん:声がかかれば、どんな田舎でも喜んで歌いに行ったというね。まだまだあの歌声を聞きたかったなあ。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:阿久悠『歌謡曲の時代 歌もよう人もよう』(新潮社)/阿久悠『「企み」の仕事術』(ロングセラーズ)