■稽古中、1メートルほどの高さから落下……
諦める? とんでもございません。つれなくされればされるほど、恋心というのは募るものです(笑)。
「そこをなんとか」
「一度だけでもいいので」
ぜひ、ぜひ、ぜひ、ぜひ。ぜひ……を連発し、最後に「わかった」と言ってくださったのが、2018年11月に大阪で上演した新歌舞伎座特別公演『恋桜―いま花明かり―』です。
やっと想いが届き、共演が実現した舞台稽古初日、突然の体調不良に見舞われたわたしは、朝から病院に運ばれ、ピン子さんは稽古中、1メートルほどの高さから落下。2日後に本番を控え、2人はすでにボロボロの状態です(苦笑)。
それでも、なんとか無事に千秋楽を終えたとき、わたしとピン子さんの距離はグッと縮まり、なんでも言い合える仲になっていました。
舞台での所作から台詞の言い回し、余韻の大切さ、間の取り方……舞台に関することはすべてピン子さんから教えていただいたものです。でも、それ以上に、こんな優しさの伝え方もあるんだということに、わたしは正直驚きました。
朝はわたしの楽屋に直行。お茶を飲んで、おしゃべりをして。マネージャーさんが、「そろそろお支度を」と言いに来るまで、ず〜〜っとわたしの楽屋にいらっしゃいます。
白塗りしていようが、裸で歩き回っていようが(笑)、おかまいなしです。じつに堂々と気を遣ってくださって。それができるのは、後にも先にもピン子さんただお一人です。
人見知りで、とても繊細で、神経質でまっすぐなピン子さん、これからも、よろしくお願いします。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』など数多くのヒット曲を持ち、『また君に恋してる』は社会現象にもなった。最新シングル『ブッダのように私は死んだ』を含む、35周年記念ベスト『坂本冬美35th』が発売中
写真・中村功
構成・工藤晋
(週刊FLASH 2021年9月7日号)