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名曲散歩/高橋真梨子『桃色吐息』歌詞がイヤで渋々歌うことに
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.09.26 11:00 最終更新日:2021.09.26 11:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロは高橋真梨子の『桃色吐息』。深夜の「カメリアダイヤモンド」のCMが頭に浮かぶなあ……。
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マスター:高橋真梨子の10枚目のシングル。ソロ転向6年目のヒット曲で、50万枚を売り上げた。
お客さん:高橋真梨子の数ある代表曲のひとつだよね。
マスター:そう、だけど、高橋真梨子はこの曲が好きじゃなかった。
お客さん:えっ、なんで?
マスター:歌詞がセクシーすぎた、ということなんだ。
お客さん:確かに、ちょっとエロティックだよね。
マスター:レコーディングのとき、歌詞を見て、ショックを受けたという。でも、周囲から「真梨子さんならいやらしく聞こえないから大丈夫」と説得され、渋々歌うことになった。
お客さん:あれは渋々歌っていたんだ。そんな詞を書いたのは……。
マスター:80年代にアイドル歌謡からシティ・ポップスまで幅広い作風でヒット曲を量産した康珍化。
お客さん:『悲しい色やね』(上田正樹)、『悲しみがとまらない』(杏里)、『北ウイング』(中森明菜)、『君のハートはマリンブルー』(杉山清貴&オメガトライブ)などなど、名作を次々と生み出した作詞家だよね。
マスター:そう、そして、この『桃色吐息』。
お客さん:『桃色吐息』という言葉は、それまで聞いたことがなかったなあ。
マスター:そりゃそうだ。唐珍化によれば、作詞づくりに行き詰まり、「こりゃ青息吐息だ」と思った瞬間、「桃色遊戯」という言葉がなぜか浮かび、それを組み合わせたのだという。
お客さん:造語だったんだね。
マスター:この言葉から想像力を膨らませて、歌詞を一気に書き上げた。高橋真梨子が歌うことを躊躇したこの詞だけど、この年の日本レコード大賞作詞賞を受賞した。
お客さん:しぶしぶ歌った曲が、今も愛されるスタンダードナンバーになるんだから、わからないものだね。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:川上貴光『高橋真梨子 とびらを開けて』(文藝春秋)/長田 暁二『歌でつづる20世紀 あの歌が流れていた頃』(ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス)