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名曲散歩/海援隊『贈る言葉』どん底時代に書き連ねた詞の集大成
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.10.10 16:00 最終更新日:2021.10.10 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。
今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロは海援隊の『贈る言葉』。いまや卒業ソングの大定番だ。
マスター:1979年リリース、ご存じ『3年B組金八先生』(TBS系)第1シリーズの主題歌だ。
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お客さん:武田鉄矢のあくの強い演技、あくの強い歌い方、とことん印象に残るよな。
マスター:実は、武田鉄矢が金八先生に抜擢されたきっかけは、ひとりの天才脚本家の存在があるんだ。
お客さん:天才脚本家って誰?
マスター:向田邦子。
お客さん:おお!
マスター:武田鉄矢が20代の頃、テレビ局主催のパーティーに出席。そこで向田邦子と話していたとき、「この青年、おもしろいのよ」と紹介したのが、偶然居合わせた橋田寿賀子と小山内美江子だった。
お客さん:すごい! 超実力派の人気脚本家が勢ぞろい。
マスター:そこで武田鉄矢が3人に語ったのは、福岡教育大学時代、聾唖学校で教育実習したときの体験談だった。児童たちに身振り手振りで物事を伝える、その体験があったから、演技が過剰になるのかもしれない、という話をしたそうだ。
お客さん:武田鉄矢のトークは面白いからな。
マスター:向田邦子が「あなた、彼のために先生役の脚本を書いてあげたら」と小山内美江子に水を向けると、「うん、いつかね」と言って、会話は終わった。
お客さん:その “いつか” が来たんだね!
マスター:そう、小山内美江子脚本、『3年B組金八先生』。
お客さん:きたー!
マスター:それまで武田鉄矢は浮き沈みが激しく、『母に捧げるバラード』の大ヒットで紅白歌合戦に出場するも、翌年は人気が下降、大晦日に夫婦で皿洗いのバイトをした経験もある。そんなつらい経験を乗り越え、映画『幸福の黄色いハンカチ』に抜擢され、日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞を受賞した。
お客さん:なんともジェットコースターのような芸能人生だねえ。
マスター:『贈る言葉』のフレーズは、不遇時代、キャバレーの楽屋や不入りのコンサート先のホテルで、泣きながらスケッチブックに書きとめた言葉の数々だという。ちなみに、曲が完成したのは放送開始ギリギリで、荒川の土手を歩くオープニングを撮影したときは、まだできてなかったそうだ。
お客さん:その歌詞が日本レコード大賞・作詞賞に輝いたんだから、すごいねえ。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:武田鉄矢『母に捧げるバラード』(集英社)/合田道人『詞と曲に隠された物語 昭和歌謡の謎』(祥伝社)