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【M-1決勝レポート】優勝した錦鯉・長谷川に渡辺が「“逆コナン” なので」とフォロー…会場にほんわか温かい空気流れる
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.12.21 06:00 最終更新日:2021.12.21 06:00
漫才日本一を決める『M-1グランプリ2021』決勝が12月19日に開催され、長谷川雅紀(50)と渡辺隆(43)のコンビ、錦鯉が17代目王者に輝いた。
今年は、ファイナリスト9組のうち決勝初進出組が5組、吉本興業以外の芸人が4組と、例年と異なる点が多かった。見取り図、ニューヨーク、ハライチなど知名度の高い実力派芸人たちも軒並み準決勝で敗退し、決勝前の敗者復活戦に参戦した。
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18時34分、決勝の生放送が始まった。毎年、オープニングは予選を振り返るVTRが流される。昨年は舞台袖から出番に向かう直前にマスクを取る芸人の姿を映していたが、今年はその姿にはフィーチャーせず。エンターテイメントも徐々に元に戻りつつあるという力強さを感じさせた。
総合演出・白石和也氏は「ここ2年はコロナ禍もあって大会運営自体が大変で、システムやルールなど大きな変化はできないが、細部にこだわった変化はつけている」と語っているが、審査員が全員揃って登場して掛け合いを見せるなど、随所に新鮮さを感じさせる工夫がみられた。
ネタ順をその場で決める「笑御籤(えみくじ)」で、1組目に選ばれたのはモグライダー。初の決勝進出を果たした2人が、スタジオ外の待機所から伸びる赤いじゅうたんを踏みしめてスタジオへ向かう。
各組のVTRにも趣向が凝らされていた。M-1では「純粋培養の賞レースで『競技である』ことが一番なので、そこに変な感情を持たせてはいけない。ネタの前にはその人たちの声は聴かせず『はいどーも』がそれぞれの第一声であるべき」(同・白石氏)というポリシーのもと、ネタ前のVTRでは2人の姿しか映さなかった。
だが、今年はコンビ結成の理由などがテロップで紹介されていた。モグライダーの結成理由は「やっと見つけた “顔が派手なバカ”」。余分な感情は持たせないながらも、予備知識としてどんな芸人が現れるのか期待感が持てる演出だ。
モグライダーは1番手とは思えぬネタ運びで、審査員の上沼恵美子に「トップにしたら最高! グランプリじゃなくてもブレイクする」と太鼓判を押されるなど高評価。トップバッターとしては歴代最高点をマークした。
2組目はこちらも初決勝のランジャタイ。周りの芸人に「ああいう人は、ライブシーンにもあの人たちしかいない。まさに最終兵器」(オズワルド・伊藤俊介)と言わしめる世界観を見せた4分間。
全員一様に頭を抱える審査員に、司会の今田耕司が「みなさん、大いに悩んでください!」と声をかけるなか、得点は伸びず結果は決勝最下位の10位だった。
それでも、決勝後の公式配信番組「M-1打ち上げ」でかまいたち・山内健司に、「10位でこんなに面白いと思われたコンビはいなかった!」と絶賛されたように、ネタ以外の時間でも確実に爪痕を残した。
3組目のゆにばーすは、3年ぶり3度目の決勝進出。自ら「一番 “夜の匂い” のしない男女コンビ」と言う2人が、ディベートをテーマにした、漫才自体がディベートのようにさえ見えるしゃべくり漫才。審査員に3年前からの進化を驚かれたが、順位としては6位という結果になった。
4番目に引かれたくじは「敗者復活組」。勝ち上がってきたのは、ラストイヤーとなる今年、4年ぶりにM-1に参戦したハライチ。「今までのハライチとも、敗者復活戦とも違う」(サンドウィッチマン・富澤たけし)と評価された、岩井勇気が「やりたいネタがある」と温めていた一本。「泣き笑いした」と松本人志は賛賞したが、審査員の点数は高低に割れて上位には食い込めなかった。
5組目は真空ジェシカ。初決勝ながら、通常どの芸人も静かにピンと立って前を見据える、舞台へ昇るせり上がりで、川北茂澄がカメラに近づいて煽る強心臓ぶりを見せて登場。「センスを感じる」(オール巨人)、「今まで(のコンビ)で一番、一個一個のワードがハマっていた」(中川家・礼二)と高評価を得た。
6組目は優勝候補と目された、3年連続決勝進出のオズワルド。昨年、松本とオール巨人に真逆な講評を受けたことで、今年一年「ちょっとどころじゃなかった」(伊藤)ほど悩んできた。
試行錯誤の末に練り上げた漫才がたたき出した点数は、ダントツの665点。「これだけ期待されながら、その期待をちゃんと乗り越えてきた」(松本)、「直すとこないんちゃう?」(巨人)と賞する2人はもちろん、ナイツ・塙宜之にも「漫才師の憧れ」と最大級の賛辞を贈られた。
続く7組目はロングコートダディ。今年、コント日本一を決める「キングオブコント」でも初めてファイナリストとなった。ネタで使ったワード「肉うどん」がツイッターやYahoo! 検索で上位にしばらく残り、審査員も「そう来たか、と思った」(立川志らく)と強烈に記憶に残るネタで高得点を得た。
8組目は2年連続の決勝進出を果たした錦鯉。「もうちょっと畳みかけてほしいと思っていたところで、畳みかけてきた」(富澤)と評されたように、しり上がりに勢いを増す漫才で、客席の笑い声もヒートアップ。オズワルドに次ぐ2位に躍り出た。
9組目のインディアンスは、昨年の敗者復活を経て、今年で3年連続の決勝挑戦。ボケ数の多い彼ららしい漫才で、「6000組(強の今年の全出場組)のなかで一番漫才が上手いんじゃないですか。天才」(塙)と高評価を得て、錦鯉と同じ655点をマークした。
ラスト10組目、結成5年目の若さで決勝進出を果たしたももは、初決勝でラストという難しい出順ながら5位に食い込んだ。「“3年後優勝顔”」(松本)と将来性を期待するコメントをもらうも、「(3年後ではなく)来年優勝するんで」(まもる。)と強気で答える頼もしさをみせて松本らを驚かせた。
上位3組に残ったのは、点数上からオズワルド、錦鯉、インディアンス。3組がもう一ネタ披露し、審査員7人が一番面白かったと思う芸人1組に票を投じる。
最終決戦では2番目にネタを披露した錦鯉が大爆発。次のオズワルドが「錦鯉に完全に空気を変えられた」と完敗を認めたほど、勝利を確信させる漫才だった。7人中5票を獲得して優勝が決まったその瞬間、熱く抱擁した錦鯉。耳元で渡辺に「ありがとう」とささやかれ、長谷川は号泣。彼らを長く知る審査員の富澤、塙の目からも涙がこぼれていた。
それから15分後、優勝記者会見場に錦鯉が現れた。いったん落ち着いたのか、涙のない2人が壇上につく。その姿はさながら芸能人の会見ではなく、一般企業の発表会のようだ。
しかし、会見が始まればいつもの大声とテンション。「まだ実感がわかない。ホントに現実かな?」(渡辺)、「誘われてコンビを結成したのが33歳(渡辺)と40歳(長谷川)。時間はかかったけれど、50歳でこうなれたのは渡辺隆に感謝です」(長谷川)と流ちょうに答えていたが、だんだん興奮してきたのか、長谷川の回答がおぼつかなくなってくる。すかさず渡辺が「この人、見た目はおじさんですけど、中身は子供の “逆コナン” なので」と助け船? を出す。会場には、ほんわかとした温かい空気が流れた。
写真撮影では、渡辺がトロフィーを持ち、長谷川はお約束のツカミ「こーんにちはー!」の中腰ポーズで決める。しかし彼らは43歳と50歳。司会のヒロド歩美アナウンサーに「腰がつらいと思いますが……」とM-1王者で前代未聞の心配をされながらも撮影を乗り切り、この後に続くハードスケジュールの波に乗り込んでいった。
翌朝から、錦鯉はテレビに出ずっぱり。昨年の王者としてその多忙さを知るマヂカルラブリー・野田クリスタルには「(長谷川)雅紀さん、死んじゃうんじゃないか」(「M-1世界最速大反省会」より)と心配されたが、「今まで十分寝てきたから。寝だめして帳尻合わせてきてるから大丈夫」(長谷川)と、忙しさも楽しむ決意を固めていた。
今年のファイナリストは、これまでに比べると、正直知名度は高くない。優勝進出者発表会見でも、今年は記者からの質問数が非常に少なかった。筆者はM-1オフィシャルライターとして、毎年発表後に全組インタビューをしているのだが、「記者会見っていつもあんな感じなんですか?」と、特に初決勝組の芸人たちは不安がっていた。
そんな彼らもこれをステップに、“お笑いだけで食える” 芸人、そして誰もが知る芸人になっていくだろう。チャンピオンだけでなく、ファイナリストも人気芸人になっていくのがM-1の特徴でもあるからだ。
ランジャタイが舞台に上がるせり上がりの場面、国崎和也が相方・伊藤幸司の背中をポンっと叩く姿が映っていた。初決勝でもあり、恐らく本人はそこが映ることに気づいていないだろう。
ふだん、芸人として突拍子もないことを言う姿しか表に見せない国崎の、万感の思いが見えたそのしぐさ。「漫才は人柄が見えて感情移入しやすいし、それを世間に見せつけるからファンになりやすい」(同・白石氏)と少しニュアンスが違うかもしれないが、M-1だからこそ見られるワンシーンだった。
「これは漫才なのか?」論争の翌年、もしかしたら、昨年のマヂカルラブリー優勝の影響で、正統派ではないネタをする芸人が増えたと思われるかもしれない。
しかし、今年決勝で戦った芸人で、ネタをそういう方向に変化させた芸人はいない。みな、自分たちが面白いと思う漫才を守り、何年もブラッシュアップし続けてきた芸人ばかりだ。もし何かが変わったのだとしたら、「漫才は自由でいいんだ」という見る側の意識の方なのだろう。
昨年の「49歳のファイナリスト」の時点で、「マンガのような夢の叶え方は大谷翔平選手と同じ」と言っていた錦鯉が、50歳の王者になった。知られざる芸人たちが世に出た今年のM-1。錦鯉を筆頭に、笑いで2022年を明るく照らしてくれるだろう。
取材&文/松田優子
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