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【坂本冬美のモゴモゴモゴ】『うずしお』発売直後の思い出は…ブルックリンの教会で「POWER!POWER!」の大合唱
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.01.22 06:00 最終更新日:2022.01.22 06:00
十人十色。百人百様。千差万別ーー人にはそれぞれの個性があり、身に纏った色が違えば、物事の進め方にも違いがあります。
何度かご一緒させていただいていると、そのうちになんとなく対処法ができてきますが、初めての方だとそうはいきません。
抜き足、差し足、忍び足。お互い、最初は遠慮しながら、そ〜っと、近づいていって。それがどこかの時点でピタッとはまった瞬間に、いい関係が生まれ、最高の歌ができるんじゃないかと思っています。
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デビュー9年め。まだ『夜桜お七』の余韻が残っている1995年6月に発売した『うずしお』も、そんな一曲でした。
詞を書いていただいた岡田冨美子先生とはこれが初めて。曲をいただいた浜圭介先生とは、奥様の奥村チヨさんが事務所の先輩でしたので、ご縁はありましたが、ご一緒させていただくのはこれが初めてでした。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね」
ぎこちない挨拶をするわたしを、浜先生は優しい笑顔で迎えてくださり、レコーディングはとっても和やかな感じでスタートしました。
ところがです。何度かテイクを重ねている間に、ふと気づいたのですが、先生が「いいねぇ」と口にした後、必ずと言っていいほど「いいんだけど……もう1回やってみようか」という言葉が続くのです。
最初は、いいならもう歌わなくてもいいんじゃないのかなぁ……などと、不遜なことを思ったりもしたのですが、よぉ〜く先生のお顔を見ていると、ニコニコしながら「いいねぇ」とおっしゃるその目が、メラメラと燃えているのです。
「下手くそ!」「もう1回!」「ここは、こう歌うんだよ!!」…etc、etc。
ストレートにおっしゃる師匠の猪俣公章先生に慣れていたわたしにとって、浜先生のスタイルは、ちょっとした驚きと同時に、すごく新鮮でもありました。
浜先生は、顔はニコニコしていても、揺るぎない信念と、誰であろうと何があろうと、これだけは絶対に譲れないというものが、いつも心の真ん中にデンとあるーーそんな熱いものを持った先生でした。
■歌っているときはノーリアクションも……
わたしが初めてニューヨークを訪れたのは、この『うずしお』が発売になってすぐのころです。ブロードウエー、タイムズスクエア、自由の女神……見るものすべてが新鮮で、もうドキドキのしっぱなしです。
そう、あれは船で渡った隣町、ブルックリンの教会で、ゴスペルの人たちに交じって『アメイジング・グレイス』を歌ったときのことでした。
最初は「これが日本人のアーティスト? 嘘だろう!?」くらいに思われたのかもしれません。ボンキュッボンを見慣れた人たちにとっては、貧相な子供にしか見えなかったというご意見もあるかと思います(苦笑)。歌っているときは、ノーリアクションです。
それが歌い終わって、テレビのインタビューに答えていたそのときです。話の前後は忘れましたが、「POWER」という単語を口にした瞬間、みんながいっせいに詰め寄ってきて、握ったこぶしを天井向かって突き上げながら「POWER! POWER!!」の大合唱。なんじゃ、こりゃ、です(笑)。
な、な、な、何が……起きた!? わけもわからず、巻き込まれたわたしも、気がつくと一緒になって「POWER!」と叫んでいて……。なぜ、あんなことになったのか? 今も謎は謎のままです。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』など数多くのヒット曲を持ち、『また君に恋してる』は社会現象にもなった。桑田佳祐から届けられた『ブッダのように私は死んだ』のリリースによって生まれた「情念POPS」をセレクトして制作された最新コンセプトアルバム『Love Emotion』が好評発売中!
写真・中村功
構成・工藤晋