■映像と共鳴するユーミンの音楽
『私スキ』のストーリーにおける重要なシーンは、ユーミンの歌ありきで映像が制作されている。この手法はホイチョイ・ムービーのお家芸といってもいい。
【サーフ天国、スキー天国】
矢野文男(三上博史)は、仕事を終えて地下鉄で帰宅し、ガレージでタイヤをスタッドレスに交換する。スキー用具を愛車に積み、カセットテープをデッキに差し込むと、『サーフ天国、スキー天国』のイントロが流れる。
「関越自動車道で、池上優(原田知世)が乗ったスキーバスを、矢野の車が追い越していくのをワンカットで撮影。そこはすごくこだわりましたね。スキー場で出会う2人を、丁寧に描きたかった」(馬場監督)
【恋人がサンタクロース】
泉和彦(布施博)、小杉正明(故・沖田浩之さん)、佐藤真理子(原田貴和子)、羽田ヒロコ(高橋ひとみ)といった矢野の仲間たちがジャンプ、トレイン走行(ムカデ)、キックターンなど、スキーテクニックを披露する。当時、まねするスキーヤーが続出した。
【A HAPPY NEW YEAR】
「5時間かけてふられに行くなんてバカだよな……」
大晦日、矢野は万座から優がいる志賀のスキー場へと車を走らせる。さまざまな葛藤を抱えながら対面する2人。新年を告げる花火が上がる。
【BLIZZARD】
スキー用具一式を最短でイベント会場へ届けるため、矢野たちは志賀―万座のバックカントリー(管理外エリア)に挑む。荒々しい雪山の急斜面を滑り降りていく。息をのむシーンの連続だ。
「映画や演劇は、音楽と芝居の割合が半々だと思うんです。完全にイーブン。だけど、僕は9(音楽):1(芝居)で撮ってる。いい映画やミュージカルは何度観ても楽しめる。それは音楽がいいからです」(同)
■『私スキ』は今でも年に一度は観ています
1987年11月、『私スキ』はホイチョイ・ムービー第1弾として全国公開され、空前のスキーブームを巻き起こした。ゲレンデではユーミンの曲がエンドレスで流れるようになった。馬場の予言どおり『私スキ』は大ヒットを記録し、35年たった今でも、スキー映画といえば『私スキ』以外にない。
「この映画がヒットしたいちばんの理由は、タイミングだと思いますよ。スキー人気が高まっているときに、スキー映画が公開された。そこに尽きると思います」
馬場は年に一度は必ず、この映画を観るという。
「『アベック』とか古い言葉が出てくるけど、滑るシーンに時代性はないからね。オールドスクールなスキーってよかったよな、って思いながら観てますよ」