数年後、井筒和幸監督のヒット作『パッチギ!』の続編オーディションに参加するチャンスが巡ってくる。
「面接でどういう環境で育ったのかとか、初めて私のパーソナルなことを聞いてくださって。そのときプロデューサーに『パッチギ!』を観てどう思った? と聞かれたので『自分のアイデンティティに近いものだったので、私も参加したかった。悔しかった』と話したんです。それがよかったみたいで、キョンジャ役をいただきました」
井筒組の撮影は、なかなか厳しかったと懐かしむ。
「めちゃくちゃしごかれました。ある場面で泣けずにいたら(監督に)『プロやったら泣け。お前のために50人のスタッフが寝不足で待ってんやから、はよ泣け』と言われたときは、ひーっとなって。
(芝居の)テクニカルなことが全然わからず、純粋にぶつかっていくことしかできなかったです。一回デビューして、生半可な気持ちでやっても何もできないってわかっていたし、絶対必死にやらないと後悔すると思って。そう、すごいムキになってました」
この演技が注目を集め、出演オファーが続く。近年ではドラマ『パーフェクトワールド』(2019年、関西テレビ)では主人公に報われない恋心を抱く介護ヘルパーを演じ、『ただ離婚してないだけ』(2021年、テレビ東京)では夫に不倫される妻を演じるなど、薄幸の女性の演技が評判だ。
「違う役もやっているんですが……そういうイメージがあるのだとしたら『薄幸は私の専売特許』でいいかな(笑)。『パーフェクトワールド』に出演しているときはインスタグラムに何度も『二度と出てくるな』と書き込まれました(笑)。
あれは役で私じゃないんだけどと思いましたが、逆にそれだけ純粋にドラマを観てくれているわけだから、いいことだなと思いました。私自身は撮影が終わったらすぐに切り替えるようにしているので家でビール飲んだら『お疲れさま』という感じですね(笑)」
オンとオフの切り替えは、自然に上手になったという。
「20代は休みの日も映画を観たり勉強をしたりしていました。私がサボっている間に誰かが頑張っていると思うと不安で必死でした。
でも、仕事って本当にプレッシャーがあって当たり前のものだから、そればかりになると幸福度が減るなって。自分が本当に楽しいとか幸せと思える時間を意識的に持たないと、なんのために頑張っているんだろうって思うんです。
だから、頑張ったらご褒美。大好きな海に行ったり、美味しいものを食べて美味しいお酒を飲んだりすることが、私にとってのご褒美ですね」
■選択肢が増えた40代は楽しみ
40歳の誕生日を迎えたばかり。
「年齢を重ねることが全然嫌じゃない。経験を積んだことで自分の選択肢も増え、20代のころの頭でっかちも解消しましたし。今の年齢だからできることもたくさんあると思うので、40代は楽しみだなって思います」
4月9日からは、主演ドラマ『今夜はコの字で シーズン2』が放送される。
「コロナ禍でコミュニケーションの場でもある『コの字酒場』での飲食が難しくなってしまいましたよね。だからこそ、また観たいという視聴者の方からの声が届いて、シーズン2が制作されました。人との距離感が近いドラマを観て、ほっこり楽しんでもらえたらなって思います。個人的にはまた美味しいお店との出合いが楽しみ(笑)」
そう話すと、美味しそうにグラスに残ったビールを飲み干した。この時間は中村にとっての “ご褒美” だ。
なかむらゆり
1982年3月15日生まれ 大阪府出身 1998年にデュオ「YURIMARI」としてデビュー、1999年に解散。映画『パッチギ! LOVE&PEACE』(2007年)のヒロインに抜擢され、全国映連賞女優賞、第3回おおさかシネマフェスティバル新人賞を受賞。最近の出演作はドラマ『天国と地獄~サイコな2人~』(2021年、TBS)、『ただ離婚してないだけ』(2021年、テレビ東京)、『SUPER RICH』(2021年、フジテレビ)など。4月9日から主演ドラマ『今夜はコの字で Season2』(BSテレ東ほか)がスタート
【 美味ぇ津゛】
住所/東京都港区新橋4-21-7
営業時間/18:00~23:00
定休日/土曜・日曜・祝日
※新型コロナウイルス感染拡大の状況により、営業時間、定休日が記載と異なる場合があります。
写真・野澤亘伸
スタイリスト・道券芳恵