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テリー伊藤に一橋大学教授・楠木建が教えを請う!2人が「勝敗のつくスポーツはしない」理由

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.06.12 06:00 最終更新日:2022.06.12 13:26

テリー伊藤に一橋大学教授・楠木建が教えを請う!2人が「勝敗のつくスポーツはしない」理由

テリー伊藤(右)と楠木建(左)

 

「彼は僕より15歳年上で、人生の理想の先輩の一人です。ぜひ、教えを請いたい」

 

 ファーストリテイリングの経営人材育成や、多くの企業の経営諮問委員を務め、饒舌で明晰なビジネスエッセイで一般読者にも人気の一橋大学大学院教授・楠木建氏。

 

 その楠木氏が憧れるのが、数多くの伝説のバラエティ番組を立ち上げてきたテリー伊藤氏だという。

 

 約10年前のパーティで挨拶を交わしたきりという2人が、初めて対談のテーブルに着いた。

 

楠木 僕はテレビを観る習慣がないので、テリーさんが手がけられた番組や、出演番組を観たことがほぼありません。ただ、ご著書はデビュー作『お笑い北朝鮮』(コスモの本、1993年)からずっと読んでいます。ユーチューブのテリーさんのチャンネル「お笑いバックドロップ」はずっと拝見しています。

 

テリー ありがとうございます。ユーチューブは仕事じゃなくて、好きなことをやっているだけなんです。

 

楠木 テリーさんの言葉でいいなあと思っているのが、「勝ち組、負け組」という区分けを「イヤらしい」と一刀両断されていることです。僕もこの言葉がすごく嫌いなんです。

 

テリー 俺はジムには行くし、最近は公園でラジオ体操をしますが、勝敗のつくスポーツはしないんです。ルールが決まっているのも嫌ですね。

 

楠木 僕も週に3回はジムに行きます。でも、僕にとってはスポーツですらなく、たんなるルーティンです。

 

テリー ですよね。ゴルフだと勝った負けたがあって、帰りに落ち込みそうで。

 

楠木 僕の本業は経営学者で、専門分野は競争戦略です。「競争のなかで、商売が儲かったり儲からなかったりする論理」を研究するものですが、多くの人は「商売の競争」と「スポーツの競争」を混同しています。スポーツは、金メダルからビリまで勝ち負けがつきます。一方、商売ではユニクロとZARAはいずれも勝者ですよね。各社が自分がいいと思うことを勝手にやっていて、それを「好きだ」と思う顧客が受け入れて、共存しているんです。

 

テリー 俺、お酒を飲まないでしょ。酒場に行かない代わりに、洋服屋さんや車屋さんに行くことが気分転換になっています。洋服は好みや流行があるし、それを取り上げてもカッコ悪いなあと思って。それで、ユーチューブでは車の番組をやっているんです。

 

楠木 僕もまったく飲めません。夜は10時には床につき、朝6時に起きて仕事を始め、午後4時には仕事を終えています(笑)。テリーさんの番組はご自身の「好き」を突き詰めてやっているのがいいんですよね。世の中のほとんどのことは、その人の「好き嫌い」で決められると思います。しかし、実際には「良し悪し」で判断し、「だからダメなんだ」と声高に主張する人が幅を利かせています。

 

テリー 女のコを車に乗せるとき、「この車はジウジアーロ(イタリアを代表する工業デザイナー)がデザインしたいい車なんだ」と口説いたら、「でも、(車体の)お尻が下がっていて窮屈だから嫌い」って言われたことがありますね。

 

楠木 僕も昔ジウジアーロがデザインした117クーペに乗っていました。たしかにお尻が下がっていました(笑)。

 

テリー 俺は「 “いい” 車だ」と言いながら、たんに「好き」だったわけですね。俺とそのコの価値観は全然違って、おもしろいなあって。

 

楠木 本来、自分が好きであればそれでよくて、ほかの人の好き嫌いはどうでもいいんです。それなのにテレビは、自分の好き嫌いで発言したことが炎上したり、良し悪しにすり替えられやすい媒体ですよね。

 

テリー これまで、俺はテレビではいい人と思われようとはまったく考えず、好き勝手にコメントしてきました。視聴者の一部に共感してもらえればそれでよかったんです。でも最近、俯瞰して違った視点でしゃべることが嫌になってきたんですよ。

 

楠木 テレビを観ない僕からすれば、テリーさんはコメンテーターにもっとも向いていないように見えます(笑)。もっとも、テリーさんは過激な発言をウリにしているように思われがちですが、『出禁の男 テリー伊藤伝』(本橋信宏著、イースト・プレス)では、当時の部下が「時間は守れ」「礼儀正しくしろ」と繰り返し言われたことを明かし、常識にうるさかったと証言しています。

 

テリー でも、たとえばワクチンの副反応とか、わかった顔をしてコメントするのは俺じゃなくてもいいな、と思うようになったんです。それであるイベントで、ワクチン担当大臣だった河野太郎さんに「大臣、副反応ありましたよ。絶倫になりました!」と言ったら、苦笑して俺の前から去っていきましたけど(笑)。

 

楠木 テリーさんは、昔から好き嫌いが変わっていないですよね。

 

テリー 根っこは変わりませんが、たとえばビルの建設現場を見ると、20代のときはワクワクしたのに、今は「こんなにビル建ててどうすんだよ」って思うじゃないですか。感じ方は変わってきますよね。

 

楠木 ですが、もともとテリーさんの根底には「哀愁」がありますよね。自伝的小説『オレとテレビと片腕少女』(KADOKAWA、2016年)のエピローグで描かれる東京・築地の幼馴染みの人生模様は、はみ出した人たちへの愛に溢れていました。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系・1985~1996年)でも、お笑いコンビのゆーとぴあやヨネスケさんがバカなことをやっているのを家族に覗き見させるなど、哀愁ある演出をされていたそうですね。

 

テリー 哀愁……俺の中に(『元気が出るテレビ!!』の名物企画)「早朝バズーカだ!」と大騒ぎする自分と、切なさを大切にする自分がいるんです。俺が大学を出てプラプラしていたとき、つき合っていたマコっていうコがいたんですよ。彼女が、デートしているときに「ねえねえ、口紅買ってよ」と甘えるんです。俺、「なに呑気なことを言ってんだ」とちょっとイライラしました。そうしたら、マコは「少しずつ返すから」と。唇で返すってことですよ。当時は、そんな彼女のカッコいい言葉を受け止められなかった。50年たっても思い出しますね。

 

楠木 素敵な記憶ですね。僕は小学校のころからずっと日記をつけています。昔の日記を読むと、ネガティブなことは全然思い出せないのに、すごく嬉しかったことは、バッと甦りますよね。僕は、弟たちとロックバンドを何十年もやっているんです。ライブを終えて、あとに残るのはただただ幸せな「記憶」です。そういう記憶って、生きているとどんどん貯まっていくじゃないですか。人間の最大の資産は、お金よりも記憶だよなと思います。

 

テリー 日記を書くことは、40歳、50歳になってからでもいいから、ぜひ始めるべきだと思いますね。誰かに読んでもらうものではない、飾りのない日記を。

 

 

てりーいとう
1949年生まれ 東京都・築地出身 『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)、『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京系)などの番組の企画、総合演出を務める。『老後論 この期に及んでまだ幸せになりたいか?』(竹書房)など著書多数

 

くすのきけん
1964年生まれ 東京都出身 南アフリカ・ヨハネスブルグで幼少期を過ごす。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。『すべては「好き嫌い」から始まる』(文藝春秋)など著書多数。新刊『絶対悲観主義』(講談社+α新書)が6月22日発売予定

 

写真・木村哲夫

 

( 週刊FLASH 2022年6月21日号 )

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